源氏物語 千年の謎 - 樺沢 紫苑

「『源氏物語』誕生の秘密に斬新な解釈で迫る」というこの映画の最も特徴的な部分が、弱いと言わざるを得ません。(点数 60点)


(C)2011 「源氏物語 千年の謎」製作委員会

日本文学の源流『源氏物語』誕生の秘密に斬新な解釈で
迫る壮大な歴史エンタテインメント。

 大掛かりなセットや衣装は非常に美しく、
平安歴史絵巻とでも言うべき、ビジュアル的なおもしろさがあります。

 また、雅楽の演奏など、平安時代の雰囲気の演出はなかなか良いです。

 「源氏物語」の物語の世界と、紫式部が生きる現実の世界とを
交互に描き、時に物語の世界が、現実に影響を及ぼす
という演出もおもしろいと思います。

 ただ、「『源氏物語』誕生の秘密に斬新な解釈で迫る」という
この映画の最も特徴的な部分が、弱いと言わざるを得ません。

 というか、なぜ紫式部が『源氏物語』を書いたのか、
この映画を見ても、サッパリわからなかった人も多いのでは
ないでしょうか?
 
 当然、「言霊」がキーワードになると予想されますが、
「言霊」という言葉が全く出てこないのは、拍子抜けです。

 物語を書くことが現実世界に影響を及ぼす。

 劇中では、「物語の力」ということで、表現されているのですが、
なぜ物語を書くと、物語が現実に影響を与えるのかの
説明が全くないので、多分、生田斗真狙いで映画を見に来ている
若い世代の人たちは、話しがサッパリわからなかったはずです。

 物語を書くことが現実世界に影響を及ぼす。
 その理由は、「言霊」(ことだま)思想です。

 「言霊」思想とは、
「言葉に出すことで、それが現実化する」という考え方。

 例えば、お正月に初詣に行った人もいるでしょう。

 私は、寒川神社に正式参拝してきましたが、
正式参拝をすると、本殿に上がって、参拝ができます。

 その時、神主さんが、お払いをしてくれるのですが、
その時の「祝詞」で、「払い給え、清め給え」と言います。

 なぜ、「払い給え、清め給え」と言葉に出すだけで、
穢れが払われて、清められるのでしょうか?

 それは、言葉にパワーがあって、その言葉の力によって、
穢れが払われる、という。それが、「言霊」です。

 
 平安時代、なぜ天皇や貴族が、短歌を詠んだのか?
 そして、「勅撰和歌集」という天皇の命令で、すなわち国家事業として
和歌集が編纂されたのか?

 それは、天皇や貴族が和歌で、「国家が平安であれ」と詠むことで、
その言葉のパワーで、実際に国家が平安になる、
と信じられていたからです。

 つまり、日本が言霊文化の上に成立していたからに、他なりません。

 五七五七七の31文字の短歌の言葉のパワーで
国家を平安にすることができると考えられた時代に、
約100万文字もある日本最古の長編小説「源氏物語」が、
突如として登場するわけです。

 そこに込められた「言霊のパワー」たるや、
想像を絶するものがある、と同時の人はとらえたでしょう。

 そうした言霊文化の背景を知った上で、
この「源氏物語」に紫式部が、どんな「想い」を込めたのか、
というのは非常に興味深い謎です。

 しかし、この映画では、こうした奥深い「言霊」文化の話を
全く説明せずに、「物語の力」という一言で片付けてしまっています。
 
 あまりにも乱暴というか、説明不足が甚だしい。
 結果として、消化不良で物足りない映画になってしまっています。

 生田斗真(源氏)、中谷美紀(紫式部)、東山紀之、窪塚洋介など
演技陣は豪華ですが、今ひとつ精細がありません。

 特に、物語の要となる光源氏を演じる生田斗真。
 ビジュアル的には、超美形の源氏にピッタリなのですが、
演技力がともっていないために、非常に存在感が薄い源氏となっています。
 
 この中で一人気を吐いていたのが、六条御息女の田中麗奈でしょう。
 生霊となって襲いかかる、その表情は夢にでてきそうなほど
インパクトがあのます。
 
 もう少し細かい部分をしっかりと作れば、
もっともっとおもしろくなりそうな素地があるだけに
とても残念な気がします。

樺沢 紫苑

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