◆刑事サスペンスと人間ドラマの二面性(65点)
北イタリアの小さな村のはずれにある湖のほとりで、若くて美しい女アンナ(アレッシア・ピオヴァン)の遺体が発見される。この村の警察署に着任してきたばかりのベテラン警部サンツィオ(トニ・セルヴィッロ)が捜査を進めていくうちに、住民たちの人間関係や家族の在り方が明らかとなっていく。
カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作『息子の部屋』のナンニ・モレッティオ監督のもとで助監督を担当していたアンドレア・モライヨーリの長編デビュー作である本作は、本国イタリアでは小劇場での公開に始まり、口コミによって240館以上に拡大公開されて大ヒットした。挙句の果てにはイタリアのアカデミー賞と称されるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で史上最多の主要10部門を獲得するという快挙を成し遂げたのである。
刑事サスペンスと人間ドラマの二面性を持っており、どちらかと言えば人間ドラマに比重が置かれている。モライヨーリ監督は、落ち着いた静謐なタッチで登場人物たちが抱えている問題を浮き彫りにしていく。だが、魅せ方やストーリー運びが全体的に淡々とし過ぎているため、地味な小品というイメージのある作風がより一層地味なドラマとして仕上がった。それでも湖の周辺の鮮やかな風景描写は誠に秀逸であり、このようなシーンを多用していれば芸術映画として味わい深い作品に仕上がっていただろう。上映時間を95分にまとめて観易い作品にしたことが最大の救いだとも言える。
個人的には、TV刑事ドラマ『特捜最前線』の地味で盛り上がりに欠ける回のイタリア産と言いたい。
(佐々木貴之)