湖のほとりで - 福本次郎

わが子だからこそ余計に憎み、その気持ちをどこにも追いやることができない。障害や難病の子を持つ親はふと頭によぎるそんな思いに胸を痛め、己を責めている。映画は、殺人事件をきっかけに、人々が抱える闇をあぶりだす。(70点)

湖のほとりで

© 2007 INDIGO FILMS

 わが子だからこそ余計に憎んでしまう。そしてその気持ちをどこにも追いやることができない。障害や難病の子を持つ親はふと頭によぎるそんな思いに胸を痛め、己を責めている。なぜ愛するものを苦しめるのか、そうしたやり場のない怒りを抑えながらも日々の暮らしを守っていかなければならない。映画は、誰もが顔見知り同士の小さな村で起きた殺人事件をきっかけに、人々が抱える闇をあぶりだす。誰にもいえない葛藤が、捜査員の尋問によって堰を切ったように参考人の重い口からあふれ出すシーンが苦悩の深さを物語る。

 アンナという若い娘が全裸他殺体で発見される。担当のサンツィオ警部は関係者を次々と当たるが、決定的な証拠は見つからない。やがてアンナの恋人のロベルトが捜査線上に浮かぶが、アンナを検視した結果、彼女は処女だった上、脳腫瘍を患っていた。

 知的障害を持つマリオの父親の告白が家族の愛憎を象徴する。中年になっても独り立ちできない息子と弱っていく自分の足、そんな運命を呪う姿が悲しく切ない。さらに、病弱な幼い息子を事故死させた夫婦の後悔。ロベルトの母も怠惰な息子に不満を抱いている。親たちの本音は、本当は切り捨てたいのに血のつながりゆえに面倒を見なければならず、自分の人生が浪費されていくというもの。善良そうな村人から噴出する小さな悪意が暗い影を広げていく過程は非常にスリリングだ。

 サンツィオも若年性痴呆症の妻を持つ上に一人娘とのすれ違いに困惑していている。村人に事情聴取していくうちに彼自身の懊悩をも浮き彫りにしていく構成は冴えている。彼もまた妻の存在を持て余している上に、それを娘に言えずに溝を作ってしまい、ある意味で事件の被疑者より危機的な状況にある。事件の背景を知る立場を利用して人々の実情を探り自分の現状に投影していくのだが、彼は苦しみを分かち合って娘と新たな絆を結ぶことに成功する。このあたりのサンツィオの押さえた表現がリアルで共感を呼ぶ。捜査の形を借りて人間の赤裸々な感情を発露させるアイデアに心理的サスペンスを絡ませ、本当のミステリーは人間の心の中にあることを見事に描ききっていた。

福本次郎

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