渇き - 福本次郎

◆現実と妄想が複雑に入り混じり、映画はノワールな色調を湛えたファンタジーの様相を帯びる。それはイマジネーションが生む幻惑的な感覚のリアル、はかなさの中にも凶暴なきらめきを宿す映像は、生きることの切なさを訴える。(50点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 聖職者としての使命と吸血鬼としての生存本能の葛藤に加え、人間のとしての欲望が主人公の心を蝕む。生き続けるだけでも罪なのに、その上人妻を愛してしまった男の苦悩は更なる深みにはまっていく。現実と妄想、願望と幻覚が複雑に入り混じり、物語はノワールな色調を湛えたファンタジーの様相を帯びてくる。それはパク・チャヌ監督のイマジネーションが生みだした幻惑的な感覚のリアル、はかなさの中にも凶暴なきらめきを宿す映像は、生きることの根源的な切なさを訴える。

 神父のサンヒョンは難病のワクチン開発のために身を捧げ死ぬが、輸血によって息を吹き返す。その後サンヒョンは吸血鬼に変貌、病人や自殺志願者の血で命を長らえる。ある日、幼馴染のガンウと再会し、彼の妻のテジュと強烈に惹かれあう。

 人のために犠牲になり、復活したサンヒョンは聖職者の鑑。信者たちは彼にキリストの姿をだぶらせ赦しを請う。しかし、サンヒョンの正体は意識不明の入院患者から血を吸う吸血鬼。さらに人妻との肉欲に溺れ彼女の夫を殺してしまう殺人者として描き、彼を徹底的に貶めることで神の存在に疑問を呈する。確かに傷や病を癒し平安をもたらしてくれるが、裏では決して他人に知られてはならない行為に手を染めている。もの言わず目だけで意思を示すテジュの義母が偽善の証人となり、映画はそんな「現代の神」を告発する。

 テジュを抱いたサンヒョンがビルからビルへ舞うシーンは幻想的な美しさ、サンヒョンがテジュの血を啜りつつ自分の血を彼女にのませるシーンは狂気にも似た激情、そして覚悟を決めたテジュがサンヒョンにもらった靴を履いて朽ち果てるシーンは真実の記憶を死に昇華させる崇高な愛。さまざまなメタファーが孤独と絶望を友として生きてきたふたりの悲しみに満ちた運命を象徴し、大いなる余韻を残す。ただ、各々のエピソードが非常に散文的で前後のつながりが弱く、脈絡なく飛躍するイメージに混乱したのも事実だ。

福本次郎

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