◆命懸けで真実を伝える新聞記者達の姿を描く社会派ドラマ(65点)
『キングダム/見えざる敵』のマシュー・マイケル・カーナハン、『ボーン』シリーズのトニー・ギルロイ、『アメリカを売った男』のビリー・レイの3人が手を組んだ。彼らが脚本を手掛ける『消されたヘッドライン(原題:STATE OF PLAY)』(『QUEEN/クィーン』のピーター・モーガンが書き直し)は現代を舞台にした社会はドラマ。見慣れた雰囲気の映画ではあるが、命懸けで真実を伝える新聞記者達の姿を実にリアルに描き、メディアの果たすべき義務とは何かを問いかける。
将来有望な国会議員スティーヴン・コリンズ(ベン・アフレック)の愛人ソニア・ベーカーがワシントンDCの地下鉄のホームで不可解な死を遂げる。コリンズの友人である野暮ったいワシントン・グローブの記者カル・マカフリー(ラッセル・クロウ)とその同僚で政治ゴシップのブログを書くデラ・フライ(レイチェル・マクアダムズ)は、ソニア・ベーカーが死亡した前の晩にスタッグという少年が射殺され、サンドというピザの配達人が銃弾を受け瀕死の重傷を負うという事件と自殺と見なされていたソニアの死が関連しているという事実を突き止める。カルとデラが真実を追い求めると伴に、彼らの前に国家の巨大な闇が立ち塞がり、彼らの身に徐々に危険が迫ってゆく…。
本作はポール・アボットによって書かれた2003年のイギリスのテレビ番組を基に作られた映画で、『ラスト・キング・オブ・スコットランド』のケヴィン・マクドナルドが監督を務める。『大統領の陰謀』等、70年代の映画に影響を受けた本作はジャーナリスト目線で物語が語られ、何の凶器も持たない者達が死と隣り合わせの極限状態に突然陥り、机の上のパソコンに向かい「書く」という事だけで戦うという展開が70年代の社会派映画が好きな人には特に楽しめる作風となっている。
ラッセル・クロウ演じるカルはベン・アフレック扮するコリンズとは大学時代の友人で、ロビン・ライト・ペン扮するコリンズの妻アンとも交流がある。というよりもカルはアンに以前想いを寄せていたのだ。コリンズはソニアの事件後、彼女との不倫問題ばかりがスクープされ、行き場を失いカルの家を訪れる。ソニアの自殺は絶対にないというコリンズ。古い友人だから、また昔好きだった女の愛する男だからコリンズを助けたいという想いを心のどこかに秘め、ジャーナリストとしてカルはさらなる真実を追い続ける。そして、彼はある民間軍事企業がコリンズに恨みを持ち一連の事件は彼らの仕業ではないのかと疑い始める。
カルとタッグを組む事になるレイチェル・マクアダムズ扮するデラはペンすら所持していないという今時の女性記者。そんな彼女はカルに重傷のサンドの取材のため病院に送られ、彼女は目の前でサンドが暗殺されるというショッキングな洗礼を受ける。これを機にカルとデラの関係が恋愛に発展する可能性が出て来るのではと思いきやそうはならず、職場の先輩後輩としての信頼が強固なもにになるという展開を見せる。この2人をただ良い記事を書きたいという同志として描いている点は非常に好感が持てる。
カルにはヘレン・ミレン扮する編集局長キャメロンという上司がいる。彼女は何も書かないまま外でカルが一体何をやっているのか分からず苛立ち、加え他社にスクープ記事を先取りされ激怒し、カルに8時間以内に記事をまとめる様に告げる。カルの外での取材以外に、とにかく新ネタをライバル紙より先に記事にしたいキャメロンと完全なる真実を書きたいカルという新聞社内での責任の多いジャーナリストとそうではないジャーナリストの2種類を対比する事で物語はより緊迫感を呈すのだ。
ジャーナリストとして一生に1度あるかないかの国を揺るがす大スクープを紙面に飾れるとしたら、それは何としてでも追求したいに違いない。この映画はそんなジャーナリスト達の真実を探求する精神に敬意を捧ぐと共に、危ない目にも遭っている彼らに同情する様な作りになっている。最後は記事が完成し、工場で新聞が作られ、日々どんな凄いネタが載っているのか楽しみにしている人々の手に届くまでの工程を淡々と映す。一体その出来上がった新聞にはどんな衝撃的な記事が載っているのか?それは是非あなたの目でお確かめを。
(岡本太陽)