海の沈黙―デジタルリマスター版― - 福本次郎

◆戦勝国の軍人は敗戦国の民間人に対し、文化や芸術に対する憧憬と尊敬を言葉にし、愛にも似た情熱で相互理解を訴える。モノクロのコントラストに登場人物の感情を鮮明に反映させ、人間の誇りと良心について深い洞察を加える。(60点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 戦勝国の軍人と敗戦国の民間人。軍人は戦争に勝った事実など微塵も鼻に掛けず誠意を持って民間人に接するが、民間人は軍人に心を開かず負けても誇りまでは捨てていないことを体現する。相手国の文化や芸術に対する憧憬と尊敬を言葉にし、両国の長所を融合させるのが新たな進歩のステップであると考える軍人は、愛にも似た情熱で相互理解を訴える。最初は彼を意識的に無視し、憎しみすら抱いていた民間人は、やがて彼の話に耳を貸すようになっていく。映画はモノクロのコントラストに登場人物の感情を繊細に反映させ、人間の良心について深い洞察を加えていく。

 1941年、ドイツ軍に占領されたフランスの村で、老人が姪と二人で暮らす家の2階が将校用宿舎として接収される。やってきたドイツ軍のエーブルナック中尉は夜毎フランス語でフランスの素晴らしさを語るが、老人と姪は彼に一瞥すらくれない。

 ドイツ軍人といっても、エーブルナックは貴族階級出身でナチスとは思想的に一線を画している。また、父の代からフランスびいきであるらしく、完璧なフランス語を話す。彼にとってフランス占領軍に加えられたのは憧れの国に赴任するような気分だったはずで、宿泊先がたとえ田舎町の小さな家であっても決して居丈高にならず、軍服姿すら見せないように気を使っている。一方の老人と姪の暮らしはそれほど余裕があるようには見えず、エーブルナックの貴族趣味な話は高尚過ぎたのではないだろうか。彼らの沈黙は祖国を打ち負かした敵に対する警戒以上に、貴族と平民という身分的な壁が横たわっていたことに由来しているのだ。

 軍務でパリに出たエーブルナックは、そこで軍部におけるナチズムの台頭を知って愕然とする。彼はフランスを破壊しようとするナチ党員の下劣な発想に失望し、戦争は所詮暴力でしかないと知る。前線に去っていくエーブルナックに姪が 「アデュー」と声をかけ、老人もまた彼が守り通したプライドに敬意を払う。そんな人間の理性すら踏みにじられていく戦争の現実が、寡黙な映像の中で饒舌に語られていた。

福本次郎

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