直球勝負の映画の作りと俳優たちの熱演に深く感動させられた(75点)
社会性と娯楽性を兼ね備えた力作で見応えがある。大企業・国民航空の社員・恩地は、労働条件の改善を求めて奔走し勝利するものの、会社の懲罰人事で僻地の海外勤務を強いられる。10年に及ぶ孤独な日々に耐えて本社復帰を果たすが、ジャンボ機墜落事故という未曽有の惨事の遺族世話係という過酷な任務につくことに。組合闘争、出世欲、大事故、政界と企業の癒着などを描きながら、腐敗に屈せず、信念を貫く一人の男の人生を追う。3時間22分の長編だが、日本の社会構造を鋭くえぐる内容は、スクリーンに対峙する価値がある。
原作は山崎豊子の名作同名小説。映画を見る前は、一企業に殉ずるかのような昭和の企業戦士の生き方に、今の時代を生きるものとして共感できるのかと危惧していた。もちろん拷問のような扱いを受けても会社を辞めない主人公を全肯定はできないが、直球勝負の映画の作りと俳優たちの熱演に、深く感動させられた。愚直なまでの生き方を貫く恩地役・渡辺謙、敵役の行天役・三浦友和、共に素晴らしい。パキスタン、イラン、ケニアとスケールの大きな舞台設定は、映画に格調とリアリティを与えている。御巣鷹山の惨劇と、長年の海外流転を交互に映す構成も上手かった。企業の管理体制のほころびから生まれた大惨事と個人の失意が絡み合い、胸がしめつけられる。さらに主人公を支える家族の存在は涙なくしては語れない。大作のため、インターミッションを挟んで上映される物語の後半は、腐敗した企業を再生させようという試みとそれを阻む旧体制や政治的目論見が描かれ、こちらはまさに現代にも脈々と生きる悪しき構造を見るよう。話は架空と断りがついているが、誰が見ても思い当たる実在の企業・事件がベースだ。その航空会社の息も絶え絶えの現状を知る我々は、この物語には終わりなどないと突きつけられてやるせない。それでも恩地のように懸命に生きる人間の生き様が未来への希望の灯となろう。映画製作に当たっては多大な苦労があったと聞く。それを乗り越えて作品を作り上げたスタッフ・キャストの労を心からねぎらいたい。
(渡まち子)