殺人犯 - 福本次郎

◆主人公の不安定な精神を延々と再現するという、あまりに手垢のついた表現にウンザリしているときに突然投げ出される衝撃の真実。どんでん返しとはまさにこの展開、禁じ手スレスレのまったく予想外のオチに思わず膝を打った。(50点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 「もしかして」という疑念と「そんなはずはない」と否定する声が胸の奥で共鳴する。同僚が悲惨な目にあった現場で気を失っていた刑事が、捜査を続けるうちに犯人は自分ではないかという疑いを持ち始める。記憶喪失、妄想、悪夢…、謎が新たな謎を呼ぶ迷宮の中で立ち往生し、途方に暮れる彼の心理状態は壊れそうなほどデリケートに過剰反応していく。映画は、そんな主人公の不安定な精神を延々と再現し、今はやりのサイコホラーの様相を呈していく。そのあまりに手垢のついた表現にウンザリしているときに突然投げ出される衝撃の真実。どんでん返しとはまさにこの展開、禁じ手スレスレのまったく予想外のオチに思わず膝を打った。

 連続猟奇殺人事件を追うレンは通報を受けて古いアパートに向かうが、何者かに殴られて気絶、その間に同行した警部が襲われて重傷を負う。一時的に記憶障害を起こしたレンは、親友のクァイと共に捜査を続行するが、集めた証拠はレンに不利なものばかり。彼は己の記憶を疑い始める。

 冒頭、古い高層アパートに駆け付けたレンと同僚が事件に巻き込まれる映像がシャープだ。疾走する足元をカメラがとらえたあと、空から降ってきた男が折れた片足を引きずりながら立ち上がろうとする。その血塗られたイメージと混沌とした意識が生みだす幻覚はこの後の方向性を決定づけ、狂気に満ちた世界にいざなう。観客はレンと同様に混乱し、五里霧中であきらめと疑心暗鬼の影に覆われていくのだ。

 その後、更なる殺人が繰り返され、レンの家族にも魔の手が伸びるにあたって、それはレンの心に潜む悪意の仕業とレン自身が思いこまされていく。そして、積年の恨みと周到に用意された復讐、レンを殺すよりも生きたまま無間の苦しみを与えるのが犯人の目的であることが明らかになる。ただ、この真相を解明する過程が非常に説明的になってしまったのが残念だ。そのあたり、もう少しテンポをよくし、見せ方に工夫があれば引きしまった印象になったはずだ。

福本次郎

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