正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官 - 山口拓朗

◆緻密な脚本とムダのない描写を評価したい(75点)

 移民・関税執行局(I.C.E.)に所属するベテラン捜査官マックス(ハリソン・フォード)の任務は、不法滞在者の取り締まり。しかしながら彼は、取り締まりの対象である不法滞在者の立場に同情的であった。ある日、一斉取り締まりで縫製工場に踏み込んだ際に逮捕した不法滞在者の女性から、「幼い息子を人に預けているの。住所を書くから助けて」と懇願され……。

 一筋縄ではいかない移民問題に鋭く切り込みながら、移民大国アメリカの諸事情を浮き彫りにする社会派映画だ。登場するのは、メキシコ、イラン、オーストラリア、韓国、バングラディッシュ、南アフリカ、ナイジェリアなど、さまざまな国からやってきた移民や不法滞在者たち。彼らはアメリカという国に身を置きながら、グリーンカード(永住権)や市民権の取得問題、不法滞在の問題、強制退去の問題、孤児や里親の問題など、今後の人生を大きく左右しかねない多種多様な問題に直面している。

 この映画は、そうした問題をはらんだ複数のドラマを同時進行で見せながら、アメリカの国情にも踏み込んでいく。たとえば、テロリスト扱いされるバングラディッシュ出身の少女のエピソードで描かれる、警察権力による人権蹂躙(じゅうりん)とも言うべき描写には、9.11以降のアメリカのナーバスさがありありと見て取れる。いや、そもそもテロ対策を主目的とするI.C.E.という組織自体が、この種の問題に対するアメリカの危機感を代弁してもいるようなものだが。

 テイストとしては、学者がアメリカの移民問題を解説した「新書」というよりは、ルポライターが仔細な筆致でつづった「ノンフィクション」寄りの作品といえよう。つまりは、生々しいほどのリアルさが武器である。それは、移民問題というテーマを漠然と俯瞰するのではなく、実際にそうした境遇に身を置く移民や不法滞在者たちの具体的なエピソードを例に挙げながら、その一つひとつを丁寧に掘り下げていった成果ともいえる。

 運の善し悪しも含めて、各エピソードは、それぞれの形で終結を迎える。笑った者もいれば泣いた者もいる。終盤にきて、ドラマチックにまとめすぎたエピソードもなきにしもあらずだが(リカーショップや記念式典のシークエンスなど)、そこはエンターテインメントの素養に秀でたアメリカ映画らしいサービス精神として好意的にとらえておこう。

 新鋭ウェイン・クラマー(監督・脚本)の緻密な脚本とムダのない描写を評価したい。また、抑制を利かせた演技で新境地を切り開いたハリソン・フォードを筆頭に、レイ・リオッタ、ジム・スタージェス、アシュレイ・ジャッド、クリフ・カーティス、アリス・イヴなど、若手、中堅、ベテランを問わず、多彩なキャストがそれぞれの持ち場で遺憾なく実力を発揮した結果、群像劇としての力強さも手に入れている。

 本作「正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官」は、アメリカの移民問題にメスを入れた良質の社会派作品だ(断じてハリソンフォード扮するI.C.E.捜査官が大活躍するヒーロー映画ではない!)。作品自体が移民問題について何らかの解決策を示しているわけではないが、知られざるアメリカの現状が把握できるという点において、一見の価値を有している。

山口拓朗

【おすすめサイト】