正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官 - 町田敦夫

◆不法移民の問題に一石を投じる良質の社会派ドラマ(70点)

 リーマンショックで威信に陰りが見えたとはいえ、世界標準に照らせば米国はまだまだ富とチャンスの国。よりよい暮らしを求めて世界中から貧しい人々がなだれ込む。本作はそんな不法移民の諸事情を、彼らを取り締まる捜査官マックス(ハリソン・フォード)の苦渋を軸に描いた群像劇だ。舞台はポール・ハギス監督の『クラッシュ』(04)と同様、人種のるつぼのロサンゼルス。ただし、『クラッシュ』が人種間の対立に問題意識を置いていたのに対し、こちらは米国市民権の有無という切り口でアプローチを取っている点が目新しい。

 本作が取りあげるのはメキシコ、オーストラリア、バングラデシュ、イラン、韓国、ナイジェリア、南アフリカ共和国などから米国に移民し、あるいは不法入国した1ダースほどの老若男女だ。自身も南ア系米国人であるウェイン・クラマー監督(脚本も)は、宗教や家族構成の異なる多彩なキャラクターを創造し、それぞれにリアルで説得力のある物語を与えた。『クラッシュ』と同様、多くの登場人物たちが少しずつ袖すり合いながら、個々に独立したストーリーを紡いでいく構成がうまい。

 9.11テロ以降、米国の不法移民に対する規制が強化されたあたりの事情は、先に公開された『扉をたたく人』でも描かれていたところ。その影響を受け、本作の登場人物たちも、就労許可をエサに悪徳役人につけ込まれたり、強制送還によって家族がバラバラになったりといった悲劇に見舞われる。といって胸を痛めてばかりはいられないのが、この問題の難しいところ。日本でも数ヵ月前に、蕨市に住むフィリピン人一家の強制退去を巡って筋論と同情論が交錯したばかりだ。クラマー監督はそんな万人の葛藤を、マックスという実直なキャラクターの言動に投影してみせる。

 一方で本作には、晴れて市民権を取得した「勝ち組」たちも登場する。たとえばイラン移民のハミード(クリフ・カーティス)は、今ではマックスの同僚(つまりは権力を振るう側の人間)だ。この男、たまたま遭遇した酒屋強盗を水際だった手並みで鎮圧するかと思えば、妹を殺害された事件に絡んではどこか後ろ暗い秘密を抱えている様子。本来的には地味なこの社会派ドラマにハミードのようなキャラクターを配することで、クラマーは本作をエンターテインメントとしても見応えのあるものにした。

 人気絶頂期には「大作映画の主演でなければ出ない」と発言していたフォードも、さすがに還暦を超えて心境が変わったか、今回はインディーズ映画の、しかもアンサンブルキャストのひとりとしての参加に相成った。最後にハミードを追及する場面だけは“主演級スター”の面目躍如たるヒーローぶりだったが、逆にそこだけが作品全体のトーンから浮いていた感も。フォードが出演することでこの作品の集客力が格段にアップすることは容易に想像されるだけに、まだ実績の乏しいクラマー監督が一種の「おべっか」としてこのシーンを書いたのではないか、そういえばフォードには脇役だったキャラクターを主役のひとりに書き換えさせた「前科」があったっけ……と、そんな裏事情を想像しながら鑑賞するのも一興か。

町田敦夫

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