◆たった一人、月で働く男を描いて、果てしない孤独を感じさせる本格SF。ひねりのきいたストーリーが、「存在」とは何かを問いかけてくる。(74点)
優れたSF映画は、常に哲学的な問いを内包している。本作もそうだ。「存在」とは何かという、根源的な問いを投げかけてくる。
サム・ベル(サム・ロックウェル)は月でたった一人、エネルギー採掘の仕事を続けている。3年間の契約期間があとわずかで終わるというとき、事故が起きる。ロボットに助けられ、気がつくと基地の診療室に寝かされていたが、すぐそばに自分にそっくりな男がいた。
ダグラス・トランブルの秀作SF「サイレント・ランニング」(1972)を見たとき、宇宙は途方もなく寂しい、と思った。同じ雰囲気を、本作にも感じた。荒涼とした月の風景、無機質な基地内。一緒にいるのは人工知能のロボットだけだ。それで十分に寂しいのだが、「もう一人の自分」が登場したことで、主人公は自分の存在が「無」ではないかと気づく。底なしの寂しさがぽっかりと、穴を開けるのである。
監督はこれがデビュー作となるダンカン・ジョーンズ。ロック界の大物、デビッド・ボウイの息子だ。本作で、エジンバラ国際映画祭新人作品賞、シチェス・カタロニア国際映画祭の作品賞、主演男優賞、美術賞、脚本賞、ナショナル・ボード・オブ・レビューの新人監督賞、ブリティッシュ・インディペンデント・フィルム・アワードの新人監督賞、作品賞など、様々な賞を受賞した。それも納得できる。月面車で走る場面や、基地内の描写など、インディペンデント作品にもかかわらず、特撮がなかなかよく出来ている。謎もサスペンスも、ロボットとの友情もあって、最後まで飽きさせない。
最近のSFは派手なCGを見せるばかりの子供向けの作品が多いが、本作はイギリスらしい、大人のSFに仕上がっている。もう少しスケール感のある映像があればとも思うが、低予算で新人が作ったSFとしては成功だろう。ハッピーエンドとも、そうでないともとれるラストが余韻を残す。
(小梶勝男)