◆命の大切さを笑いと涙にくるんだロブ・ライナーの最高傑作(90点)
死は突然にやって来る。だから多くの人々は何の準備もしないまま、思いを残して旅立っていく。が、中には自分の死期を事前に知らされ、十分な準備の時間を与えられる“不幸な”人々もいる。
同じ病室に入院した金満実業家のエドワード(ジャック・ニコルソン)と、学問好きな整備工のカーター(モーガン・フリーマン)は、互いに末期ガンで残り半年の命と知る。アメリカには共用の病室で患者に余命を宣告する医者がいるのかと首をひねらないではないが、とにかくそこがこの素晴らしい感動作の出発点だ。2人は人生でやり残したことをリストに書き並べ、それを実現するためにこっそりと病院を抜けだす……。
……と、ここまでの導入部を観ただけで、ロブ・ライナー監督の手練れの技に感服した。不遜な金持ちと、金持ちに媚びない整備工の丁々発止が無類に笑えるのだ。難病モノでありながら、これほどユーモア満点で、しかも同じ境遇にある人々への礼節を失わない作品を、私は他に知らない。
ベテランのニコルソンとフリーマンは、それぞれの持ち味にピタリとはまった役柄を余裕たっぷりに好演した。エドワードの秘書を演じたショーン・ヘイズもまたうまい。ボスに向かって平気でキツいことを言うこの皮肉屋の秘書は、ストーリーの終盤に極めて大きな役割を果たすことになる。
エドワードのありあまる金を使い、2人の病人はパリ、アフリカ、ピラミッド、タージマハール、万里の長城と世界を歴訪。リストの項目を1つ1つクリアしていく。カーターが「荘厳な景色を見る」「赤の他人に親切にする」「涙が出るほど笑う」といった、どちらかといえば精神的・抽象的な願いを記したのに対し、エドワードの願いは「スカイダイビングをする」「マスタングに乗る」と即物的・具体的だ。
最後にリストに残された数項目は、いずれもカーターが書いた精神的な願いだったのだが、面白いのは、最初はバカにしていたそれらの願いを、エドワードが意外な形で実現に導くこと。その意外性はまた、観客の涙腺を激しく刺激するスイッチにもなる。
実のところ本作の作り手は、オープニングのシーンにあるワナを仕掛けている。ぜひ素直にだまされてみてほしい。やがてその真相が明かされた時、驚きに動揺するはずだから。そして命のはかなさを実感し、限りある生を今より少しだけ大切にしようと思うはずだから。
(町田敦夫)