最後の忠臣蔵 - テイラー章子

日本人の一番好きな出し物である忠臣蔵と、曽根崎心中を二つ合わせて ひとつの映画を作るなんて、監督は、実に巧みな人だ。(点数 75点)


(C)2010「最後の忠臣蔵」製作委員会

ワーナーブラザーズ製作の日本映画 「最後の忠臣蔵」を観た。
劇場の大画面で観たかったが、シドニーでは望めない。うちの大画面ソニーブラビアで 我慢我慢。

監督:杉山成道
原作:池宮彰一郎
キャスト
瀬野孫左衛門:役所広司
寺坂吉之門 :佐藤浩市
可音    :桜庭ななみ

【ネタバレ注意】

ストーリーは
大石内蔵助は、47士とともに 吉良幸上野介を討ち入りする前日、腹心の瀬野孫左衛門をそばに呼んで、実は自分には可留という女中との間に 生まれてくる赤子がいる。
このことを知っているのは 当人と孫左衛門だけだ。討ち入りの後、大石家の血を引くものは ことごとく罰せられるに違いない。
しかし、病弱な可留から生まれてくる赤子まで制裁されるのは、忍びない。
事態が収まり、赤子が成長するまで世話をしてもらいたい。と頼み込む。
3代 大石家に家老として仕え、他の誰よりも 大石家に忠誠をつくしてきた孫左衛門にとって 討ち入りの戦線から退くことに断腸の思いだったが、主君の命令を自分の命にかえて完遂すると、約束して、彼は刀を捨て、苗字を捨てて、人里はなれた隠れ家で 赤子を引き取って育てる。

大石内蔵助の娘、可音は 自分の素性を知らぬまま成長し、孫左衛門から行儀作法、読み書きを習い、技舞だったゆうから、琴などの芸事を習いながら、武士の娘としての自覚を持った女性として立派に育っていく。
孫左衛門は骨董品の売買で、生計を立てていたが、天下一裕福、といわれる豪商 茶屋四郎次郎のところに出居りするようになる。
ある日、茶屋四郎次郎の息子の若旦那が、人形芝居を見にきていた可音を見て、一目惚れする。
品格があるが、どこの誰ともわからない。
困った主人は 孫左衛門に この女性が どこの姫君なのかを調べて欲しいと、頼み込む。
茶屋の若旦那と可音との縁談は、孫左衛門にとって 願ってもない話だった。

一方、可音は16歳になり、胸に内では、自分を育ててくれた孫左衛門に、異性としての恋心を抱くようになる。
しかし孫左衛門にとっては、可音は文字通り赤子のときから渾身こめて 自分の命より大切な主君のために育ててきた娘だ。
美しく成長し、自分を慕ってくれる可音を手放さなければならない 心の葛藤を抱えながらも、孫左衛門は 可音に幸せをもたらすに違いない縁談を 成功させなければならない。

内蔵助の命令で、生き残り、16年の歳月をかけて、46士の討ち入りのあと 残された家族を探し出し、世話、慰問してきた寺岡吉之門の出現で、事態は変わる。
可音は、自分が誰であったのかを知らされて、孫左衛門に従って、嫁ぐことを決意する。
可音は別れのきわに 心をこめて孫左衛門の着物を縫い、婚姻を承諾する。
孫左衛門は可音の花嫁姿を見送って、、、。
というお話。

画面が人形浄瑠璃の「曽根崎心中」で始まる。
この浄瑠璃のテーマは、「かなわぬ恋」であり、行き着く先は「心中」だ。
この時代、身分ちがいの恋はご法度であり、姦通罪は張り付けの刑、死罪。
厳罰を避けようとすれば、心中しか他に、道はなかった。
劇中、何度も何度も 人形の「お初」と「徳兵衛」が出てくる。
この映画は、孫左衛門と、可音との二人芝居であり、二人の心の葛藤を、浄瑠璃の心中物語で代弁させている。
お初と徳兵衛、孫左衛門と可音を交互に出すことによって 二人の心象風景を捉え、心の中の思いを吐露させている。
実にうまい。

武士は多弁を要しない。義に生きて 必要なことだけを言い、必要なことだけを行う。
そんな孫左衛門の自己を律した態度が潔く 美しい。
心の中の煩悶や嫉妬や親心、怒り、哀しみ 愛情さえも黙して、自分のなかだけに納める。
心の奥底に秘められた思いを お初と徳兵衛がめんめんと語り続ける。
日本人の一番好きな出し物である忠臣蔵と、曽根崎心中を二つ合わせて ひとつの映画を作るなんて、監督は、実に巧みな人だ。

忠臣蔵の武士道のもつ潔さ。
エゴを殺すことで成立する武士道と、エゴの塊である曽根崎心中の純愛は、対極にある。
しかし、どちらも不条理なこの世の中で起きた悲劇であるだけに、永遠の悲劇として人々の心を打つ。

画面が美しい。
紅葉した木々の間を孫左衛門が 早足で歩く姿が美しい。
果し合いする吉之門と孫左衛門が駆け回るススキの原野。
小さな藁葺きの小屋から流れてくる琴の音。美しい青磁器。
花嫁の着物の輝くほどの純白。

篠崎正浩の「心中天網島」は、国際的に高く評価されたが、同様にこの作品も 海外で評価されることだろう。
ただ、説明が必要。
主君にために死ぬという「名誉の切腹」は、個人主義の欧米文化では、最も理解を得ることが困難なことだからだ。

テイラー 章子

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