◆この座談会の再現は、戦争を子孫に伝える未来へのバトンの役割を担っている(55点)
第二次世界大戦末期の日本の実情とそれぞれの立場で終戦を迎えた人々の体験を語る作品で、文士劇というスタイルがユニークだ。平成22年、1人のTV演出家が終戦についてのある番組を企画する。それは、昭和38年に文藝春秋が企画した座談会を再現するという試みだった。政治家、元軍人、ジャーナリスト、作家、民間人など、さまざまな立場の人々が終戦間際の戦地の様子や、国内外の政治の動きを、彼らの心情を交えて語り尽くしていく。
文士劇とは、作家、新聞記者など、専門の俳優ではない人間によって演じられる演劇を言う。中でも、文藝春秋社が主催していた昭和期の文士劇は、三島由紀夫などの高名な作家が出演することで高い人気だったそうだ。本作はそんな文士劇のスタイルをとることで、終戦間際に政府や軍部の中枢にいた人物の発言に、プロの俳優とは違うリアリティーを与えている。出演するのは、作家の島田雅彦、ジャーナリストの鳥越俊太郎や田原総一朗、アナウンサーの松平定知など。各界から個性的なキャストが集まった。特に内閣書記官長(現在の官房長官)の速水久常を演じる国際弁護士の湯浅卓の醸し出す雰囲気が独特だ。「ポツダム宣言は寝耳に水」とのしらじらしい発言や、インテリゆえの理詰めの言葉には、政治の中枢にいながら、戦争を無駄に長引かせた後悔や死んでいった多くの国民への謝罪の思いはまったく見られない。その自覚のなさが、素人ゆえのぎこちない芝居で薄気味悪いまでに浮き彫りになっている。ソ連参戦、原爆投下、ポツダム宣言、玉音放送。まるで他人事のように淡々と回想する政治家や外交官に対し、沖縄で看護婦として過酷な前線を目撃し涙する民間人女性だけが唯一血が通った人物に思えた。
戦後が遠くなっていく今、この座談会の再現は、戦争を子孫に伝える未来へのバトンの役割を担っている。本作の試みはなるほど有意義で興味深いし、最大の愚行から最大の教訓を学ぶべきという言葉は重い。だが、過去の座談会を再現する虚構の上に、そのセットをも見せる虚構を重ねては、どうしても距離感が生じてしまう。やはり、戦争を生き抜いた人間の生(ナマ)の声を出来るだけ集めて残していくことこそが、反戦を訴える力になるように思う。
(渡まち子)