新しい人生のはじめかた - 福本次郎

◆家族と離れて暮らし仕事も行き詰っているNYの男と、刺激のない日常にウンザリしているロンドンの女。未来などほんのわずかなきっかけで変えられ、運命は自分の足で歩こうとする者の味方をすることをこの作品は教えてくれる。(50点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 家族と離れて暮らし仕事も行き詰っているNYの男と、刺激のない日常にウンザリしているロンドンの女。人生も中盤を過ぎたふたりが、もう一度生きる目標を模索しているときに知り合う。現在の生活を変化させる勇気と、失敗したらやり直せないかもしれない躊躇の中で、男は未知なる世界に踏み出す決意をする。未来なんてほんのわずかなきっかけで変えられる。それをチャンスとみなして乗ってみるか、漫然と見逃すか。運命は自分の足で歩こうとする者の味方をすることをこの作品は教えてくれる。

 娘の結婚式でロンドンに来たハーヴェイは「花嫁の父」の役目を元妻の夫にとられて失望する。空港でアンケート調査を請け負うケイトは仕事に倦んでいる。式半ばで帰国しようとしたハーヴェイは飛行機に乗り遅れ、空港のラウンジでケイトに声をかける。

 別れた妻には未練はないが、娘への思いは募るばかり。しかし娘は継父に対してより親近感を抱いている。子離れしなければいけないと自覚しつつ、気持ちに整理がつかないハーヴェイの父親としての心情が切ない。一方のケイトは婚期を逸し、異性との交流に励むものの、どこか場の空気になじめず、今の安定が崩れるのを恐れている。もう若くないふたりの、とりあえず不幸ではないけれど、このまま近づいてくる老いへの漠然とした不安がリアルに再現されている。

 契約を切られたハーヴェイはいよいよNYに戻る必要がなくなり、意気投合したケイトに付きまとう。最初は戸惑っていたケイトも見知らぬ男だからこそ本心を打ち明けられる気安さに、結局朝まで時間を共にする。一晩中ロンドンの街を歩きながら語り合う光景は若者だけの特権ではなく、年輪を重ねたふたりでも十分にロマンチック。しかも、ハーヴェイよりケイトの方がかなり背が高いにもかかわらず、しっかり絵になっている。それは落ち着いた成熟が醸し出す大人の雰囲気だ。人と人の出会いはタイミングと好奇心、日々のルーティーンから少し寄り道してみようという気にさせる映画だった。

福本次郎

【おすすめサイト】