捜査官X - 青森 学

ただのカンフーアクションではない、それを支えるさまざまな演出も捨てがたい。(点数 77点)


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物語は1917年の中国雲南省の小さな村で起きた不可解な殺人事件に端を発する。

大金を目当てに両替商に押し入ったふたり組の男が、強盗の最中に居合わせた村の紙職人のジンシー(ドニー・イェン)ともみ合いになり、結果ふたりの男が頓死したことで疑惑が生まれる。

前半は強盗を退治したジンシーの過剰防衛の疑いを検分するシュウ捜査官(金城武)の明晰な分析力に目を奪われているうちに物語の後半は抑え込まれたエネルギーが爆発するようなカンフーアクションが用意されている。法治主義のシュウ捜査官か、「仁」に目覚めたジンシーか両者の生き方が対立し、そして止揚している。

最初は緻密な心理劇を楽しめ、後半は己の過去を清算するために戦う男の奮闘が「静」から「動」へのうねりになって押し寄せるクライマックスは見ものだ。

個人的には一粒で二度おいしい感じがしたのだが、この構成を受け入れられるかそうでないのかは観る人の感性にゆだねられそうだ。

この映画にはさまざまな対置する要素がちりばめられている。シュウ捜査官の過去の反省から生じる「情」への疑念とその払拭、一方で、戦うことを止めたジンシーが愛するものを守るために再び拳を握りしめる心境の変化など、映画のなかでは誰もが自分の固定意識を改めざるを得ない状況に追い込まれていく。その変化を受け入れるシュウ捜査官やジンシーの動揺や覚悟が観ていて共感出来た。

日々安穏と暮らしているジンシーが見せる長閑な表情が一変し、悪漢と対決するときに決意した表情に落差があって肉食獣が補食するような凄みを一瞬見せるのだが、その変化がまた良い。その表情の変貌に心を射すくめられるご仁も居るのではなかろうか。

この作品では穏やかに生きようとするジンシーの「静」の部分と、自らの宿命に立ち向かう覚悟を決めた男が見せるアクションが「動」を表現して、映画にダイナミズムを生んでいる。この映画ではそういった登場人物の葛藤がうまく描かれている。

シュウ捜査官は何故、情を排して「法」だけを頑なに信ずる四角四面な人間性になってしまったのか。また、ジンシーがどのような経緯で戦うことをやめてしまったのか、背景をきっちり描写することで重厚な人間ドラマを構築することに成功していると思う。

カンフーアクションも見るべきものがあるが、やはりジンシーの妻、アユー(タン・ウェイ)の楚々とした佇まいや、ジンシーたちが暮らす村の民俗など他にも見るべきものがたくさんある。派手なカンフーアションがあるのにもかかわらず、こまやかな設定と演出がこの作品に不思議な風合いを与えている。

青森 学

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