戦場でワルツを - 小梶勝男

◆イスラエルのレバノン侵攻に伴う「サブラ・シャティーラの虐殺」を描くアニメーション・ドキュメンタリー。幻想的なアニメ映像がラストで一転して、ざらついた「真実」に変わるのが衝撃的だ(91点)

 イスラエル人のアリ・フォルマンが監督、脚本、製作を務め、イスラエル軍によるレバノン侵攻を描いたアニメーション。アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたほか、ゴールデン・グローブ賞の最優秀外国語映画賞など、数々の賞に輝いた。

 1982年、イスラエル軍のレバノン侵攻に伴って、パレスチナ人の難民キャンプ、サブラとシャティーラで大虐殺が起きる。犠牲者が3000人を超えるともいわれる「サブラ・シャティーラの虐殺」だ。

 本作は悪夢に悩まされるイスラエルの映画監督が、失ったレバノン侵攻当時の「記憶」を取り戻すため、戦友たちを訪ねる旅をアニメーションで描く。アニメーションではあるが、あくまでもドキュメンタリーだ。主人公は監督自身で、個人的な体験をそのままアニメーションにしている。それも、まずビデオで実写撮影をし、ビデオ作品に編集してから、それを画に起こしてアニメ化したという。ドキュメンタリーが先にあって、アニメーションは手法に過ぎない。フォルマン監督は本作をアニメーション・ドキュメンタリーと呼んでいる。ドキュメンタリーの手法としては、フレデリック・ワイズマンと対極にあるといっていいだろう。

 非常に政治的なテーマだが、映画はエンタティンメントとしても見事に成立している。映画監督が記憶を取り戻す旅を続ける、という設定がうまい。観客に一種の謎解きの興味を与えてくれるのだ。そして、アニメの絵に力がある。日本ともハリウッドとも違う独特の絵画的な絵は、陰影の濃さが主人公の心象をリアルに表現する。アニメでなければ、幻視やフラッシュバックの映像は描くことができなかっただろう。

 黄色い海、巨大な青い裸女、真っ白な雪景色。ときに現実を、ときに幻想を描くアニメーションは、次第に現実と幻想の境をなくし、不思議な美しさに輝き出す。それがラストで一転、ざらついた「真実」が登場するショック。ラストをいかに衝撃的に見せるか、という意味で、これほど衝撃的な見せ方はない。

 パレスチナ問題についての予備知識がないと分かりづらい部分もある。レバノン侵攻やサブラ・シャティーラの虐殺について、事前に調べてから見た方がいい。しかし、決して分かりにくい映画ではない。ドキュメンタリーをこのように見せるのは「あざとい」ともいえるが、私は「真実」を伝えるための最良の手法として評価したい。

小梶勝男

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