ケイト・ウィンスレットがオスカー・ノミネート確実の名演技を披露!(80点)
レイフ・ファインズ扮する『愛を読むひと(原題:THE READER)』の主人公ミヒャエルは誰にも話した事のない秘密を抱えている。それは15歳の時に知り合い初めて愛してしまった年上の女性ハンナの事。表情が暗く、いつもどこか心の晴れない彼から今まで語られる事のなかった秘密をわたしたちは知る事となる。
第二次世界大戦後1958年の西ドイツ、15歳のミヒャエルは学校から家に帰る途中気分が悪くなり、ひとまわり以上年の離れている女性ハンナに助けられる。それから彼女の事が気になるミヒャエルは再び彼女を訪れる。それから彼はハンナと裸で愛し合う様になるが、ある日突然ハンナは姿を消してしまう。互いに何の連絡も取らないまま8年の時が過ぎ、ミヒャエルは法学部の学生としてホロコースト裁判の見学に訪れるが、そこで被告席にいるハンナを見てしまう…。
『愛を読むひと』は『リトル・ダンサー』『めぐりあう時間たち』で知られる映画監督スティーヴン・ダルドリーがベルンハルト・シュリンクの1995年のベストセラー『朗読者』を基にデヴィッド・ヘアーが手掛けた脚本を映画化した。また、本作には今年亡くなったアンソニー・ミンゲラとシドニー・ポラックの2人の巨匠が製作に名を連ねており、本作はアーティスティックでかつ極上のドラマに仕上がっている。
この物語は大人のミヒャエルが過去を振り返りながら展開してゆく。デヴィッド・クロス扮する15歳の彼がケイト・ウィンスレット扮するハンナに初めて会ったとき、親切な彼女にどこか大人の魅力だけではない何かを感じる。それはセックスでもなく、むしろ彼女の発するエネルギーが彼にとって心地良いとでも言うかの様にミヒャエルはハンナに惹かれる。彼らの情事は愛し合う男女といったものではなく、ハンナが随分年上ということもあり、割り切った関係で、朗読が得意なミヒャエルがハンナに本を読み聞かせ、それにハンナは体で答えるのだ。
しかし、彼らのその関係はハンナの突然の失踪で幕を閉じる。そして60年代になってミヒャエルはブルーノ・ガンツ扮する教授のクラスでナチ戦犯の女性達の裁判を見に行くが、そこで聞き覚えのある声が。それは彼が愛したハンナの声。ミヒャエルは最悪な形でハンナに再会してしまう。そして裁判が佳境に差し掛かる時、ミヒャエルはハンナの抱えるある事実に気付く。なぜハンナはミヒャエルに本を読んでもらいたかったのか?そう、ハンナは読み書きが出来ないのだ。
この映画は3つに大きく分けられる。前半は若いミヒャエルの純愛の物語、中盤は彼の苦悩、後半は彼の償い。そしてこの物語で最も脚光を浴びるのは30代から約70代くらいまでを演じたケイト・ウィンスレットだ。同じ時期に公開される『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』でも素晴らしい演技を披露している彼女だが、『愛を読むひと』での彼女のパフォーマンスは息を呑んでしまうくらい圧倒的である。彼女は今回助演での出演だが、この映画はケイト・ウィンスレットの映画と言って良いだろう。
物語の中にはレナ・オリン扮する塀の中での体験を綴った本を出版したホロコーストの生き残り等が登場する。しかしこの映画はナチスがどれだけ酷い事を行ってきたかを語ってはいない。ハンナをはじめ、ドイツに生まれた者達は実は皆戦争の犠牲者であり、『愛を読むひと』はドイツに生まれどんな形であれナチス独裁政権のもとで生き残った者達、そしてその子孫がこれからもまた抱えていかなければいけない問題を浮き彫りにした物語なのだ。本作は『めぐりあう時間たち』同様、まるで小説でも読んでいるかの様に感じさせてくれるスティーヴン・ダルドリーの秀作である。
(岡本太陽)