◆深津絵里がモントリオール世界映画祭で最優秀女優賞を受賞した話題作だが、面白くない。誰が悪人かというテーマが、分かりやすすぎる(72点)
周囲の評価が相当に高い作品だが、私には、余り面白いとは思えない。確かに力作ではある。前半から中盤にかけては、実に丁寧に芝居を撮っている。深津絵里はモントリオール世界映画祭で最優秀女優賞を受賞した。それだけでも立派な映画なのだろう。だから面白いかというと、はっきり言って面白くない。
芥川賞作家・吉田修一の原作を、「フラガール」の李相日(り・さんいる)監督が映画化。主演の妻夫木聡は原作を読んで感銘を受け、自ら出演を熱望し、企画段階から参加したという。
妻夫木が演じる主人公は、長崎の外れの漁村で暮らす土木作業員だ。福岡の保険会社のOL(満島ひかり)を殺した犯人として警察に追われ、出会い系サイトで知り合った佐賀の紳士服量販店に勤める中年女性(深津絵里)と一緒に逃亡し始める。OLの父(柄本明)や土木作業員の祖母(樹木希林)、OLが好きだった大学生(岡田将生)ら、様々な人々のドラマの中で、一体誰が悪人なのか、が問われていく。
こう書くと、誰が悪人なのか判然としない複雑な物語を想像するが、実際には、悪人は誰の目にも明らかなのだ。これでは、映画のテーマとして、「問う」意味がないのではないか。
役者は熱演している。特に被害者のOLを演じた満島ひかりと、その父親役の柄本明は良かった。被害者のOLも、その父親も、愚かな人間ではあるが、その愚かさは十分に共感出来る。逃避行する妻夫木と深津のカップルも悪くない。前半から中盤にかけて、映画は地方で暮らす絶望感で張りつめている。ここは間違いなく共感出来ると思う。
だが、後半、舞台が灯台へ移ってから、明らかに失速が始まる。逃避行のロードムービーが、まるでテレビの2時間ドラマのような演出になっていくのだ。中盤までの緊張感を壊しかねない無用なスローモーション、延々と続く柄本明のナレーション、無意味なカット、主役のカップルが交わす余りに説明的なセリフ。分かりやすさは、この映画には不要だ。ただ分かりやすいだけでなく、分かりやすさの、さらに奥に届かなければ、誰が悪人かというテーマは生きてこない。
堂々たる映画であるだけに、最後まで緊張感を持続出来なかったのは、惜しいと思う。
(小梶勝男)