悪人 - 福本次郎

悪人

© 2010「悪人」製作委員会

◆金持ちの男友達の前では可愛い女のフリ、不細工な同僚や貧乏な男の前では悪意をむき出しにする女を満島ひかりがさまざまな表情で演じ分ける。欲望に忠実で人を傷つけるのは平気という、女のイヤらしさを巧みに表現していた。(60点)

 祖父母の世話をする青年、父親から娘への一方通行の愛情、胸の空白を埋めるために求めあう孤独な男女。そんな優しさが映画には溢れているのに、人の心に潜む“見下す気持ち”が殺伐とした空気を生み出す。単調で苦労の多い人生にうんざりしながらも懸命に生きる人間と、彼らを笑い飛ばす人間。その二種類の人間が交差した悲劇は、他人からバカにされたに女が他人をバカにしたときに起きる。金持ちの男友達の前では可愛い女でいようとするが、父を利用するときだけ笑顔を見せ、不細工な同僚や貧乏な男の前では悪意をむき出しにする被害者の女を満島ひかりがさまざまな表情で演じ分ける。己の欲望に忠実で人を傷つけるのは平気という、女のイヤらしさを巧みに表現していた。

 保険外交員の若い女の死体が山中で発見されるが、容疑者の大学生の供述から警察は解体作業員の祐一を指名手配する。祐一は出会い系サイトで知り合った光代と逃避行を続けるうちに、安らぎを覚えていく。

 黙々と仕事をこなし、黙々と祖父母の面倒をみる祐一はドライブと出会い系サイトが唯一の気晴らし。紳士服店員の光代も狭い世界から足を踏み出せない生活をしている。メール交換の後、2人は初デートでいきなりホテルに行くぎこちなさ、世間はクリスマスなのに2人は浮ついた気分を楽しむ様子は一切なく、ただ激しく体を貪り合う。別れ際に「本気やった」とつぶやくが、たった一度のセックスでやり場のない閉塞感にとらわれいる同類の匂いをお互いに感じ取ったのだろう。あまりにも切ないシーンだった。

 逃亡中も体を重ねる祐一を光代、それは相手の肉体を自分に同化させ魂を融合させる儀式のようだ。もはや先には絶望しかないことは分かっている、しかしその瞬間を少しでも先に延ばし、その分愛し合おうとする。逮捕の瞬間、光代の首を絞めあくまで1人で罪をかぶろうとする不器用な祐一の思いやりが、このやるせない物語に一条の光を差していた。

福本次郎

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