◆いくつになっても人は恋に胸をときめかせる。前夫と心に傷を負った男から求愛されるヒロインの「老いと性」を正面から見つめ、コミカルなシチュエーションと下品になりすぎない下ネタ、適度な笑いをまぶした脚本が素晴らしい。(70点)
もはや中年の域を過ぎ、老境に近づいても人は異性に胸をときめかせる。それは肉体的外見的な若さを追求する過程において、気持ちもまた若くあらねばと願うから。結婚、離婚、子育て、ビジネスの成功と、人生のひと通りを経験したヒロインが、2人の男の間で右往左往する。事業は軌道に乗っている、子供達も独立した、友人にも恵まれている。たった一つ欠けているものは男の肌のぬくもり。映画は、一度別れた夫と心に傷を負った男から求愛される彼女の「老いと性」を正面から見つめる。コミカルなシチュエーションと下品になりすぎない下ネタ、エスプリの利いたセリフで適度な笑いをまぶした脚本が素晴らしい。
息子の卒業式でNYにやってきたジェーンはホテルのバーで元夫のジェイクと再会、再婚した妻と不和のジェイクに熱烈に口説かれ、ふたりはそのままべッドに入る。一方、家の増築の設計にあたった建築士・アダムにもジェーンは惹かれ始める。
ジェイクは、ジェーンの子育てを終えた安心感という空白に巧みに入り込む。若い女との不倫に走ったジェイクに対して憎しみを抱いた時期もあったはずだが、時とともに消え、やっと「子供たちの父親」という感情で見られるようになったのに、ラブラブモードで突撃してくるジェイクにジェーンはまんざらでもない。長らく忘れていた男に言い寄られる快感とセックスによるホルモンの刺激で、生き生きとしていくジェーンの表情がまぶしい。さらに「家庭を壊した女の夫の浮気相手」の立場に悦に入る。いくつになっても恋は美しさの特効薬なのだ。
ジェーンは控え目なアダムともデートを繰り返す。二股をかけている罪悪感など微塵もなく、急にモテ出した自分の境遇を楽しんでいる。しかし、そんな甘い日常もいずれ決着をつけなくてはならない時がくる。若者のような恋愛をしても、なるべく傷つく人が少なくそのダメージも浅い結末を選択するあたり、歳を重ねたものだけが持つ成熟と洗練を感じさせられた。
(福本次郎)