恋するナポリタン~世界で一番おいしい愛され方~ - 福本次郎

恋するナポリタン~世界で一番おいしい愛され方~

© 2010「恋も仕事も腹八分目」フィルムパートナーズ

◆味覚の記憶が過去を美しい思い出に変え、傷ついたヒロインを癒していく。映画は行き詰ったピアニストと巻き添えで死んだ料理人、そして料理人を想いながら他の男と結婚する女の再生を通じて、人生の素晴らしさを謳いあげる。(40点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 舌の上でとろけるオムライスの卵、サクサクと香ばしいカツレツ、荒れた胃に優しく病気の体に滋養をつけるおかゆ。男の作った食べ物はヒロインの心で生きている。口にした人が笑顔になる料理、それは彼の思いがこもっているから。味覚の記憶が何気ない出来事を美しい思い出に変え、傷ついた彼女を少しずつ癒していく。映画は行き詰ったピアニストと巻き添えで死んだ料理人、そして料理人を想いながら他の男と結婚する女の悲しみと再生を通じて、人生の素晴らしさを謳いあげる。

 コックの武は、幼なじみの瑠璃の目の前で、ビルから転落した祐樹と衝突して死ぬ。祐樹が目覚めると彼の体に武の思念が宿っていた。武の意思に従い祐樹は突然料理を始め瑠璃の前に現れるが瑠璃は祐樹を拒絶、祐樹の中の武は必死に瑠璃の気持ちをほぐそうとする。

 祐樹の肉体の中の武は二重人格のように完全にパーソナリティが入れ替わるのではなく、ある時は祐樹の比率が高く、別のときは武に割合が傾いている。その状態で、ピアニストとしての限界と脳腫瘍による短い余命に絶望していた祐樹の人格が武の人格によって希望を取り戻していく。ただ、祐樹の肉体に扮した眞木大輔は2人の人格が入り混じった複雑で微妙な感情を表現する演技力に乏しく、苦悩や逡巡といった繊細な心の揺れがまったく伝わってこなかったのが残念だ。

 祐樹の中の武は瑠璃を愛そうとし、瑠璃も祐樹の体の中に武を発見するが、すべてを捨てて2人が結ばれるといった周囲の迷惑を顧みない予定調和的な結末を回避したのにはほっとした。それでも、瑠璃はきちんと武と決別するのに、武は瑠璃の結婚式パーティ用のメニューを担当してまた瑠璃の気持ちを乱すようなことをしたうえで、祐樹の肉体的寿命を知って最期には身を引く。料理を通じて相手に対する自分のハートを伝えるという脚本の意図は理解できるが、設定が通俗すぎるうえにディテールに甘さが目立つ作品だった。

福本次郎

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