怪談 - 福本次郎

◆小手先の表現術よりも、情念が怨念に変わっていく様子を細密に描く。計算されたライティングと流麗な映像は美しさと儚さが同居し、男に溺れて破滅した女の罪深い想いを表現する。それは日本古来の幽玄を追及するような趣だ。(60点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 小手先の表現術でショックを与えるよりも、情念が怨念に変わっていく様子を細密に描く。計算されたライティングと流麗なカメラワークの映像は美しさと儚さが同居し、ひとりの男に溺れて破滅した女の罪深いまでの想いを成就させる。そこにはあるのは恐怖よりも甘美な誘惑の香り、優柔不断な男が情の濃い女に絡め取られ苦悩と快楽の間で揺れ動いていく心理を、尾上菊之助が鋭利な流し目で演じている。それはホラーというよりも、むしろ日本古来の幽玄を追及するような趣だ。

 煙草売りの新吉は唄の師匠・志賀と出会い、その美しさの虜になる。ふたりは雪の日に結ばれるが、その夏には早くも年上の志賀に嫌気が差す。そんな時、志賀は目の上を怪我、やがて大きくただれて醜い顔になり、「女房を持てばとり殺す」と遺言、新吉に怨みを残して死んでしまう。

 整った顔に涼しげな目元。新吉は自分が女を虜にしてしまう容貌であることを自覚していたのだろう、次々と女心のすき間すっと入り込み惚れさせてしまう。一方で、煙草売りをやめてからは生活力もなく女に寄生するような生き方。しかも、彼に惚れるのは幸せから程遠い業を背負ったような女ばかり。そのあたり、彼女たちが怨霊となって新吉のもとに現れるシーンでも、効果音やBGMで江戸時代の怪談噺のテイストを損なわないように細心の注意を払っている。ただ、あまりにも上品になりすぎて、古典の持つおどろおどろしさを削いでしまっているのが物足りなさの原因だ。

 志賀の死後も、駆け落ち、婿入りと新吉は女を渡り歩くが、決して心休まることはない。その不安に苛まれる心を見透かすような、一切泣かない彼の子の黒目が不気味。その幼い顔にうがたれた邪悪な暗黒は、新吉を地獄にいざなうようだ。結局、新吉は妻を殺したことがばれ、追われているところを志賀の亡霊につかまり命を落とす。志賀の懐に抱かれて、死んでやっと平安を得たような新吉の顔は、生活力のない色男は女に食わしてもらうのがいちばんという心地よい諦観がにじみ出ていた。

福本次郎

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