必死剣鳥刺し - 福本次郎

必死剣鳥刺し

© 2010「必死剣鳥刺し」製作委員会

◆あくまでも寡黙。死ぬべき時に死ねずいまだに生きている居心地の悪さと、救ってもらった恩義、その板挟みになりながらも個を捨て忠義を全うする道を選ぶ武士の魂を、豊川悦司がわずかに背中に感情の一端をのぞかせて表現する。(50点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 あくまでも寡黙、胸に秘めたる義憤は奥歯をかみしめてこらえる。乱れた世の中に心を痛め、その元凶を取り除くことに自らの最期をゆだねた侍が、運命のいたずらに命をもてあそばれる。死ぬべき時に死ねずいまだに生きている居心地の悪さと、救ってもらった恩義、その板挟みになりながらも個を捨て忠義を全うする道を選ぶ武士の魂を、豊川悦司がわずかに背中に感情の一端をのぞかせる演技で表現する。不可解な人事とその奥に隠された怨念、己の理想に背く命令への苦悩、組織のために捨て石にされる悲哀、そして決して口にできない愛。だれよりも強い正義感を持ちながらも、汚泥にまみれた現実に押しつぶされていく主人公が哀れなほど美しい。

 藩主・右京大夫を籠絡し財政を傾けた側室の連子を刺殺した藩士の三佐ェ門は、中老・津田の計らいで死刑を免れ蟄居に処される。謹慎が解かれた後、津田に呼び出された三佐ェ門は右京大夫の近習に復帰させられる。

 本来、連子を一番苦々しく思っていたのは、領民の暮らしを気にかけ百姓とも通じている右京太夫のいとこ・帯屋。三佐ェ門の方も帯屋の藩政を思う気持ちを知っていたのだから、彼を良き理解者と感じていたはず。ところが、三佐ェ門に右京大夫を帯屋から守れという下命する津田は、人のよさそうな笑顔に腹の内を隠す男。津田の思惑が、正直な武骨者としか生きられない三佐ェ門と好対照をなす。豊川悦司のスゴ味以上に、岸部一徳の腹黒そうな表情が光っていた。

 やがて、津田の予想通り刀を振り回して城内に乱入してきた帯屋を、三佐ェ門は迎え撃つ。しかし、津田は三佐ェ門が「乱心」したと、十数人の部下に討ち取らせようとする。だが津田は、そこで無残に傷ついた三佐ェ門に事のからくりを教えてしまうのだ。もちろんこのシーンは「観客への説明」なのだが、こんなことをすれば裏切られたと感じている三佐ェ門の怒りの火に油を注ぐだけ。後に真相を聞かされた同僚のナレーションなどで処理すればよいではないか。三佐ェ門に「鳥刺し」を使わせるために無理矢理挿入されたような違和感が残った。

福本次郎

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