心霊音 THE MOVIE - 小梶勝男

◆ある建物の心霊現象を扱ったフェイク・ドキュメンタリー。ハイビジョンとデジタル処理で浮かび上がってくる霊が怖い(48点)

この映画は劇場未公開映画です。評価の基準は未公開映画に対してのものとなります。

 映画監督・阿見松ノ介がある建物の心霊調査を依頼され、女優2人と撮影に訪れる。ハイビジョンで撮影した映像をデジタル処理すると、本物の心霊現象が浮かび上がってきた。

 本作はいわゆるモキュメンタリーである。フィクションをドキュメンタリーのように撮る表現形式で、フェイク・ドキュメンタリーといった方が分かりやすいだろう。本来、フェイク・ドキュメンタリーはフェイクであると悟られないように作ることが重要なのだが、最近はさらにひねって、「モキュメンタリーのパロディー」も登場している。本作も、ジャケットのイントロダクションにはっきり「モキュメンタリー形式のホラー」と書いてあるので、最初からドキュメンタリーだと言い張る気はないらしい。とすれば、モキュメンタリーのパロディーなのだろう。

 監督は阿見松ノ介だが、劇中で阿見監督を演じている人物とは違う。出演は松平哲郎、品川美月、みぶ真也など、阿見作品でおなじみのメンバーだ。浅尾典彦氏は本人役で出演し、著書「アリス・イン・クラシックス」の宣伝までしている。そんな仲間内で作った極めて小規模な作品なのだが、注目すべき点はある。

 本編が終わった後、心霊場面だけを集めた映像集になる。本編ではよく見えなかった映像がデジタル処理され、そこに霊の姿が浮かび上がってくる。デジタル処理して見えてくる霊というのは、結構怖い。これまで「映っていない」と思っていたものが、本当は「映っていた」のではないか、と思えるからだ。デジタルが「この世」と「あの世」をつなげてしまう恐怖と言い換えてもいい。

 テレビというのは非常に身近なメディアだ。それが間もなく、アナログからデジタルに代わろうとしている。これまで「見えない」ものが「見える」ようになってしまうのだ。デジタルが「あの世」とお茶の間をつなげてしまうのではないか、という妄想はかなり怖い。

 ただ、本作のモキュメンタリーとしての完成度は低い。モキュメンタリーと、モキュメンタリーのパロディーと、どちらつかずで、中途半端な印象なのだ。例えばフェイク・ドキュメンタリー・ホラーの達人・白石晃士監督は、「ノロイ」(2005)「オカルト」(2009)ではモキュメンタリーのパロディーを、「パラノーマル・フェノミナン」(2010)ではモキュメンタリーそのものを撮っている。撮り方があきらかに違う。「オカルト」は個人的には2009年度のベスト1ではないかと思うほどの傑作だが、モキュメンタリーの体裁を保ちながら、撮り方は普通の映画そのもので、「編集」を相当に意識している。そしてラストに、モキュメンタリーを笑い飛ばす壮大なフィクションが用意されている。「パラノーマル・フェノミナン」の方は、編集を無視して30分ワンカットで撮っているのである。

 モキュメンタリーなのか、モキュメンタリーのパロディーなのかで、見る方の態度もまるで変わってくる。本作はモキュメンタリーのパロディーとしては見せ方が上手くない。ただ、本編の最後に出てくる幽霊の描写はかなり怖い。デジタルメディアがこれから変化していくことを考えると、フェイク・ドキュメンタリーの世界はまだまだ可能性があると思う。

小梶勝男

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