甘酸っぱい余韻を残す。(点数 60点)
愛されてはいるが尊敬はされていない。感謝はされているが理解はさ
れていない。夫と2人の息子の世話に明け暮れそれなりに充実した人生
を送っていたヒロインが、ふとした瞬間に自分の存在意義を問い始め
る。物語は幸福な隷属に甘んじている専業主婦が味わう束の間の自由
と、その変化に対応しきれない男たちの戸惑いを描く。ヒロインの繊
細な胸の内をマリア・オネットがミニマルな感情表現で演じ、甘酸っ
ぱい余韻を残す。
【ネタバレ注意】
家族のために手の込んだ食事を作るマリアだが、みなそれが当たり前
と思っている。ある日、ジグソーパズル選手権に出場するためのパー
トナー募集広告を見たマリアは、ロベルトという募集主に連絡を取る。
おそらくロベルトとの出会いはマリアにとって何十年ぶりかの心とき
めく出来事だったはず。かなり裕福そうな、しかも男やもめらしいロ
ベルトの上品で優雅な立ち居振る舞いは、家族の男たちとは明らかに
違うハイソな香りが漂っている。ロベルトの前では必死で平静を装う
マリア、そして彼との時間は決して家族には明かせない秘密となる。
一歩踏み出して今の生活から羽ばたきたい、でもその勇気がもてない。
マリアが揺れ動く気持ちを顔に出すまいとする様子がとてもリアル。
念入りに体を洗うことで彼女の恋心を示すあたり、非常に洗練されて
いる。ひとりピクニックでささやかな抵抗を試みるマリアの姿に、ま
だまだ女性の地位が低いアルゼンチンの現実が投影されていた。
(福本次郎)