幸せはシャンソニア劇場から - 山口拓朗

◆人情味あふれるエピソードを幾重にも編み込んだドラマ(70点)

 1936年、第二次世界大戦前夜のフランス、パリ。多くの人に愛されてきたミュージック・ホール「シャンソニア劇場」は、不況のあおりを受けて業績が低迷。支配人が自殺してまう。劇場は不動産屋のギャラピア(ベルナール=ピエール・ドナデュー)に押さえられ、閉鎖に追い込まれる。劇場の裏方として人生を捧げてきたピゴワル(ジェラール・ジュニョ)は、妻に逃げられた挙げ句、職もなくしてしまった……。

 孤児や問題児が集まる寄宿舎を舞台にした「コーラス」(2004年)で、せつなくも鮮やかな人間ドラマを紡いだクリストフ・バラティエ監督が、同作品で人間味あふれる教師を演じたジェラール・ジュニョを再び主演に迎えて撮影したのが、本作「幸せはシャンソニア劇場から」。登場人物たちを「試練」という名のダシ汁に放り込んだうえに、「喜怒哀楽」という名の鍋でぐつぐつと煮込んだ、旨味たっぷりの人間劇場だ。

 金と権力にものをいわせる不動産屋ギャラピア、けんかっ早いミルー(クロヴィス・コルニアック)、美しい容姿と歌声をもつ女性ドゥース(ノラ・アルネゼデール)、モノマネ芸をするジャッキー(カド・メラッド)など、物語には、善人めいた人から悪人めいた人まで、さまざまな人物が登場する。しかしながら、この映画は、彼らを決して紋切り型の人間として描かない。時間の経過と共に、一人ひとりの人間性や立場、互いの利害関係が変化していくのは、クリストフ・バラティエ監督が、人間および人間関係の有機体的性質を見抜いている証拠だろう。

 主人公のピルゴアの人生はじつに波瀾万丈だ。劇場が人一倍好きな中年男は、大好きな居場所(劇場)を奪われ、大好きな息子を奪われ、ついには大きな事件さえ起こして未来まで奪われてしまう。それでも彼は夢を見続け、自分や他人に誠実であり続けた。ピルゴアが起こした大きな事件が、自己犠牲の精神に基づいている点にも、彼の人柄がよく表れている。そんなピルゴアが、離ればなれになっていた息子と再会を果たすシーンは落涙必死だ。

 人情味あふれるエピソードを幾重にも編み込んだドラマに加え、味わい深い衣装や美術、陰影を利かせた映像、心に響く音楽の数々も見逃せない。とりわけ、劇場を再生させたピルゴアたちが披露する希望に満ちたミュージカルは、キャストの豊かな表情と歌声、それにグルーヴ感のあるオーケストラの演奏が相まって、観客を満ち足りた気分にさせる。

 大団円で締めくくるかと思いきや、一転二転の展開をもたせた終盤のドラマは、起伏に富んだピルゴアの人生を象徴すると同時に、静かな感動を誘うラストの伏線となる。人間の酸いや甘いを泥くさく描きながらも、フランス映画らしい気品を失っていないウエルメイドなヒューマン・エンターテインメントだ。

山口拓朗

【おすすめサイト】