◆父子の情愛が泣かせるフランス版『フル・モンティ』(70点)
1936年のパリを舞台に、潰れかけた劇場と、そこで働く人々との、それぞれの再生を描いたセミ・ミュージカル。
シャンソニア劇場の裏方として働いていたピゴワルは、突然の劇場の閉鎖で失職。扶養能力なしとして息子のジョジョとも引き離される。我が子を取り戻したい一心で、彼は個性豊かな仲間とともに劇場の再建に乗りだすが、問題は山積で……。
主演は『バティニョールおじさん』『コーラス』のジェラール・ジュニョ。これら2作では血のつながらない中年男と男児との温かくも切ない絆が泣かせたが、今作のストーリーの核となるのは妻(母)の去った家庭で互いを思いやり、支え合う実の父子の情愛だ。収入の途絶えた父親に代わり、街角でアコーディオンを弾いて稼ぐジョジョ(『コーラス』のマクサンス・ペラン)の健気さといったら、もう!
ミュージックホール(本来の意味です。ストリップ小屋ではありません)が舞台の映画だけに、音楽の使いどころには事欠かない。脚本・監督のクリストフ・バラティエ(『コーラス』)は、登場人物たちの喜怒哀楽に、巧みに歌のシーンを絡めた。とりわけ劇場再開の象徴となる曲「Partir pour la mer」はクライマックスにふさわしい華やかさ。ステージ上で歌いはじめた歌手やボードビリアンが、いつの間にやら空想上のセットへと飛び出してレビューを繰り広げ、最後の数小節でまた舞台上に戻ってくる。他のシーンはあくまで現実的に撮られているだけに、この(タイムスリップならぬ)スペーススリップ・シーンの効果は絶大だ。
かっこ悪い失業者たちが、時に反目したり、挫折を経験したりしつつ、人生の一大目標に向けて疾走する展開は、イギリス映画の傑作『フル・モンティ』にも通じるものが。その一方、ハッピーエンドと思わせた直後にピゴワル(と観客)を奈落の底に突き落とすビターさをも、このフランス映画は持っている。それだけに、最後の最後にピゴワルを待つ劇場の明かりは、ほとんど奇跡のように温かい。
(町田敦夫)