人が人によって輝きを取り戻すその光景は、アメリカ同様の雇用問題を抱える日本でも、少なからず共感を呼ぶだろう。(点数 65点)
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公開中、トム・ハンクス監督作品『幸せの教室』を鑑賞。主演はハリウッドを代表する二大スター、トム・ハンクスとジュリア・ロバーツのご両人だ。
大学を出ていないという理由で勤務先のスーパーをリストラされたラリー(トム・ハンクス)。彼は、再就職をにらんで地元の大学に通うことになったが、ラリーを教える教師のテイノー(ジュリア・ロバーツ)は、家庭内で問題を抱えており、仕事への情熱を失っていた。ある夜、ひとりバス停に座り込むテイノーを拾って、ラリーが自宅へ送り届けるが……。
甘酸っぱいラブロマンスが待ち受けているのかと思いきや、そのじつは、人生の岐路に立たされた中年男女の人生讃歌であった。人生のどん底にたたき落とされたラリーと、ニートな夫との間にトラブルを抱える大学教師のテイノーが、一段また一段と信頼を積み重ねていきながら、それまで背負っていた荷物――チャレンジのない人生や尊敬できないパートナー――をおろし、人生に新たな希望を見つける。
自分の過去にも不条理な社会にも不平不満を言わないラリーは、誰からも慕われる本当に“いいヤツ”だ。シャツをパンツにINする姿が頼りないのもご愛嬌。大学の講義も、厨房でのバイトも、仲間とのツーリングも、何ひとつ疎かにしない生き方は、世のオジサンたちのロールモデルとなるだろう。女性であれば、母性本能をくすぐられるかもしれない。
悪人が登場しないうえに、胸がすくようなサクセスストーリーも用意されていないため、物足りなさを感じる人もいるだろう。しかし、明るく前向きで誠実なラリーの生き方は、ゆっくりと、それでいて着実に、彼自身と周囲の人生に変化をもたらす。人が人によって輝きを取り戻すその光景は、アメリカ同様の雇用問題を抱える日本でも、少なからず共感を呼ぶだろう。劇場を出るときに「よし、自分も他人も信じてみよう!」と素直に思える1本だ。
(山口拓朗)