川の底からこんにちは - 福本次郎

川の底からこんにちは

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◆「私なんてどうせ中の下の女ですから」と、己を過小評価するヒロイン。誇れる過去もなく、現在に不平はないが希望もなく、未来の夢もない。まるで不景気にさらされている現代社会の先行き不透明性を体現しているかのようだ。(60点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 「私なんてどうせ中の下の女ですから」と、己を過小評価するヒロイン。誇れる過去もなく、現在に不平はないが希望もなく、未来の夢もない。まるで不景気にさらされている現代社会の先行き不透明性を体現しているかのようだ。そんな、何をやっても大した成果は上げられず、早くも人生が諦めモードに入っている彼女の日常と思考法がリアルだ。今より向上は望まないけれど、とりあえず生活に不自由しない収入を得てあとはだらだらと日々を過ごせればいいという、今風な若者の空気が彼女の言動に濃密に凝縮されている。

 派遣OLの佐和子は子持ちの上司・健一と付き合っている。ある日、実家の父が倒れたという知らせが入るが、5年前に家を飛び出した佐和子は簡単には戻れない。そんな時、会社を辞めた健一が佐和子の実家に一緒に行くと言いだす。

 父が経営するシジミ工場のにわか社長として佐和子はおばさんばかりの社員の前に立つが、佐和子にやる気はなく、おばさんたちも彼女の全く話を聞いてくれない。健一も娘の世話を佐和子に押し付け浮気をする。誰もかれもが頼りにならない状況で、初めて佐和子の中に自分ひとりで何とかしなければならないという意識が芽生えていく。「所詮大したことがないから、がんばらないと仕方ない」と彼女が見事に開き直ってしまう場面から、映画は助走から疾走にシフトする。

 あまりにも不器用な佐和子が、その負の力をバネに恐ろしいほどの行動力を身につけるていく過程が素晴らしい。小器用に立ち回るのではなく、駆け落ちの噂をすべて認めた上で、「こんなダメな私だけれど一生懸命やります」と自ら率先垂範しておばさんの心をつかんでいくあたり、ありきたりの奮闘→成功物語に終わるのではなく、やけくそのパワーで新たな一歩を踏み出していく過程がコミカルかつパワフルに描かれる。テンポの良いセリフの応酬が繰り返される長まわしのカットは緊張感に満ち溢れ、諦観のなかから激しさを生みだし、いつしか責任感と自信を取り戻していく佐和子を演じる満島ひかりの熱演が、最後まで飽きさせずに楽しませてくれた。

福本次郎

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