岳 -ガク- - 福本次郎

もう少し人間的な苦悩やトラウマを描いていればキャラクターに深みが出たはずだ。(点数 50点)

足元に広がる白銀の稜線を見下ろし峻嶮な頂に立つ主人公の表情は、
登頂する喜びを与えてくれた山へ、好天を恵んでくれた太陽へ、そし
て自分が関わってきた人々への感謝であふれている。そこにあるのは
生きていることへの感動。映画は山岳救助ボランティアの青年と新人
レスキュー隊員の交流を通じ、山と自然の厳しさと命の大切さを訴え
る。宇宙を感じさせるほど透き通った青空を背景に、足跡一つない新
雪の上を駆ける主人公の姿が神々しいまでに美しい。

長野県の山岳救助隊に配属された久美は、初出勤の日にいきなり遭難
者救助に出動、三歩の存在を知る。三歩は山を知り尽くし、救助隊の
手に余る遭難者を次々と単独で救出していく。

常に笑顔を絶やさず、無謀な登山者にも「ありがとう」と言って決し
て怒らない三歩は、1人でも多くの人に山へ登ってもらいたいという
願いを満面から発散させている。そんな三歩を久美は「死に慣れ過ぎ
ている」と非難するが、三歩は軽く受け流す。遭難者の遺体に「よく
がんばった」と声をかける一方で崖下に投げ捨てる、その死に対する
割り切りが三歩の生存へ意識の強さを明確にする。

だが、このあたりの三歩の邪心のなさに加えて超人的な肉体と精神は
もはや神の領域に達し、彼の無垢な魂があまりにも立派すぎて、かえ
って近寄りがたい雰囲気を纏ってしまっている。もう少し人間的な苦
悩やトラウマを描いていればキャラクターに深みが出たはずだ。

福本次郎

【おすすめサイト】