小さな村の小さなダンサー - 福本次郎

◆深夜のスタジオでひとり開脚の練習に励み、砂袋を足首に巻きつけて跳躍力をつけようとする。教官の指導は厳しく未熟者は容赦なく罵声を浴びせられる。素質のほかに不断の向上心を持つ者が生き残るバレエの世界を再現する。(50点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 同輩たちが寝静まった深夜のスタジオでひとり開脚の練習に励み、砂袋を足首に巻きつけて跳躍力をつけようとする。教官の指導は厳しく未熟者は容赦なく罵声を浴びせられる。まるでスポ根マンがさながらの合宿生活、素質のほかに誰にも負けない向上心を持つ者だけが生き残るバレエの世界を再現する。彼らに求められるのは革命への強い意志と国家・党への忠誠心、自分のために踊ることを禁じられた感情のないロボットのような表情が悲しい。物語は、1980年代に米国に亡命した中国人バレエダンサーの“現在”と“過去”を交互に織り交ぜ、思想や権力では決して魂の自由を奪えないことを描く。

 山東省の小さな村の小学生・リーは運動神経と体の柔らかさを買われオーディションに出場、合格して北京舞踏学院に入学する。はじめは落ちこぼれ寸前だったが徐々に頭角を現し、やがて米国のバレエ団への短期留学生に選ばれる。

 リーが米国で目にしたのは政治教育でたたき込まれた“堕落した資本主義・帝国主義”などではなく、豊かな暮らしと洗練された文化。そのあまりのギャップに、共産党独裁こそが人間性を奪っていると気づく。このあたりのエピソードは20世紀末期の小説や映画で散々語られてきた内容で新鮮味はない。一方で、毛沢東夫人・江青がクラシックバレエのストーリーに不満を示し、銃を手に紅軍風の衣装に身を包んだバレリーナが革命の成果を謳いあげる演目を上演させられたりする。この振り付けがとても全体主義的で、現代の北朝鮮を見ているようで面白い。

 江青の視察後、“反革命的”として舞踏学院を追放されたチェン先生がリーに1本のビデオテープを託す。それは華麗に大胆にかつ思いのままにステージを軽やかに舞うバリシニコフの映像。彼のパフォーマンスこそリーが求めていた理想のダンスだ。リーがバリシニコフと同じ運命を選びチェン先生の想いに応え、夢を成就させた姿を見せるラストシーンが美しかった。ただ、この作品のプリントの品質の低さには首をかしげる。8ミリフィルムを見ているような粒子の粗さと画面の暗さ。本来ならもっと鮮やかな発色をしていたはず。BUNKAMURAル・シネマで見たが映写技師の腕なのだろうか。。。

福本次郎

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