出口のない迷宮に放り込まれたごとき戸惑いを抱かせながらも、心地よい浮遊感に浸らせてくれる。(点数 50点)
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恐怖とは人の想像力の産物。秘め事や謀り事を持つ者は、いきおい周
囲の刺激に対して過剰反応し、心配が恐れとなりやがては押しつぶさ
れてしまう。一方、自分の目で見たことしか信じない現実主義者は、
実体のないものに先入観を持ったりはしない。そして人工着色料に染
まったような毒々しく赤茶けた大地と成層圏の冷たさを湛えた青空、
それらが見せる色調の変化と、流れる雲や満月の光は、登場人物の感
情を代弁する。映画は、欲望まみれの人間の心を鮮明に反映させ、そ
の愚かな本質を赤裸々にした上でほのかなユーモアすら漂わせる。
【ネタバレ注意】
荒野に佇む一軒の麺屋、店主・ワンの妻は従業員のリーと不倫中。あ
る日、妻は拳銃を購入、それを知ったワンは警官のチャンにふたりの
殺害を依頼する。だが、チャンは密会中の妻とリーあえて見逃す。
冒頭、異国の衣装をまとった剣術使いの不思議なダンスは、見る者を
いきなり奇妙にズレた世界観のなかに引きずり込んでいく。さらに3人
の従業員が麺を捏ねピザのように空中で回転させながら伸ばしていく
シーンは、サーカス芸並の見事な出来栄えだ。ところが本人たちはい
たって真剣にスキルを披露しているのに、凄さよりもむしろ滑稽さの
ほうが前面にプッシュれる。
物語は冗談とも本気とも取れるつかみどころのない違和感に終始支配
され、出口のない迷宮に放り込まれたごとき戸惑いを抱かせながらも、
心地よい浮遊感に浸らせてくれる。
(福本次郎)