大統領暗殺 - 福本次郎

◆まるで精緻に構成されたドキュメンタリーのような臨場感と緊迫感で、ブッシュ大統領暗殺事件とその後の米国が警察国家に変貌する様子を克明に描く。しかし、存命中の大統領や実在の人物を登場させるのは悪趣味で後味が悪い。(30点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 関係者の証言、テレビのニュース番組、監視カメラの映像、そしてハンディカメラによる街頭でのデモ隊と警官隊の衝突。まるで精緻に構成されたドキュメンタリーのような臨場感と緊迫感で、ブッシュ大統領暗殺事件とその後の米国が警察国家に変貌する様子を克明に描く。テロ予防という名目で成立した「愛国者法」の下、FBIが国民を監視し、徐々に自由と人権が制限されていく。映画はネオコンに主導された国の行く末を描き、共和党支持者に警鐘を鳴らす。しかし、存命中の現役大統領や実在の人物を登場させるのは悪趣味で後味が悪い。

 シカゴ遊説中に狙撃されブッシュ大統領が死亡、後任にチェイニー副大統領が昇格する。やがてイスラム教徒のジクリ容疑者が逮捕され、暗殺の背後にシリアの関与があると決め付ける。さらに愛国者法を改正、FBIの権限を強化して容疑者の拘束を容易にする。

 ジクリ容疑者は、イスラム系でかつてアフガンのテロリスト訓練キャンプに参加した経歴があり、狙撃現場に指紋も残している。しかし、決定的な証拠はなく、陪審員の思い込みで有罪判決を受ける。事件後は「疑わしきは罰する」という風潮が蔓延し、アラブ系・イスラム系は肩身が狭い思いをする。このあたりの描写はすでに現実に起きているのだろう、ジクリの妻が真犯人に訴える「引き金を引く前にその後の影響をなぜ考えなかったのか」涙の叫びは非常にリアリティがあり、米国社会で普通に暮らすイスラム系の声を代弁している。

 後にイラクで戦死した兵士の父が犯行をほのめかす遺書を残して自殺するが、ほとんど世間からは相手にされず、事件の真相とともに闇に葬り去られる。国民はヒステリックに犯人像を仕立て上げ、FBIは国民に迎合する。そして気がついたときには、治安維持法下のようなビッグブラザーの管理社会になっているという恐るべき未来予想図。ただ、ここまで大上段に構えられるとかえって嫌味で、皮肉や揶揄といったユーモアの潤いをもう少し感じさせてほしかった。

福本次郎

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