大木家のたのしい旅行 - 福本次郎

奇天烈な世界観の、ディテールに至るまでの作り込みが素晴らしかった。(点数 60点)


(C) 映画「大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇」製作委員会

長い同棲生活ゆえに、相手に対するときめきがまったくない新婚夫婦。
その緊張感のなさからにじみ出る緩みきった空気が腹をくすぐる。他
愛のないことで口論しても結論を曖昧にする、長年連れ添った男女の
ごとき落とし所が絶妙だ。そんな、変わり映えしない日常にどっぷり
浸かった倦怠期のカップルが“地獄ツアー”に参加する。奇妙なシチ
ュエーションにも関わらず、痴話げんかを繰り返し、せっかくふたり
で温泉に入っても「話すことがない」と口にするシーンがさらなる脱
力感を醸し出す。

スーパーの占い師に“地獄ツアー”を勧められた信義と咲は面白半分
に申し込む。森の一本道に放り出されたふたりは、道中決して振り返
えるなという忠告を受けていたが、賑やかな音につい後ろを見る。

突然荒涼とした採石場のような場所に投げ出され、赤い顔の怒ったオ
ッサンに追われるふたりは、青い顔のヨシコに助けられて旅館まで送
ってもらう。この赤い顔の男たちが唯一地獄を連想させる造形だ。肉
体的苦痛は全力疾走や階段を延々昇る程度のユルさで、しかも場面場
面で交わされる信義と咲の会話の内容がことごとく彼らの置かれてい
る状況からズレていて笑わせてくれる。

ここでは荒川良々みたいな、フツーの映画では変人の役ばかり演じる
俳優のほうが、むしろまともに見えてしまう。その奇天烈な世界観の、
ディテールに至るまでの作り込みが素晴らしかった。

福本次郎

【おすすめサイト】