◆いつのまにか物語に引き込まれる(65点)
フランスのオルセー美術館開館二十周年記念の一環として美術館側の全面的なバックアップを得て製作された。
パリ郊外にある一軒の家は、名画家だった亡き大叔父が生前に利用していたアトリエだった。そこで一人暮らしをしているエレーヌ(エディット・スコブ)は自身の死を悟り、長男フレデリック(シャルル・ベルリング)に家と飾られている美術品コレクションを売り払って欲しいと頼むが、反対されてしまう。翌年、エレーヌは突然他界する。フレデリック、次男ジェレミー(ジェレミー・レニエ)、長女アドリエンヌ(ジュリエット・ビノシュ)は遺された家と美術品に向き合うことになる。
多くの美術品を通して家族を題材にしたこのドラマは、何と言ってもフランス映画らしい芸術作品として仕上がっており、静寂なタッチの美しい映像詩だと言える。
序盤で観られるのは、きらめく陽光に射しかかる緑いっぱいの大自然に囲まれた家。これが鮮やかな美しさを堪能できる風景画のようであり、その後も芸術作品に相応しい映像美が追求され、その美しさが観る者を酔いしれさせる。
本作の一番の見所はと言えば、やはり数々の美術品だ。芸術・美術ファンにはたまらないものばかりであり、これらは、決して作り物の小道具ではなく、美術館や個人が所蔵しているホンモノなのである。館内にて飾られているだけであったアイテムが外に飛び出し、この作品によって生かされているようにも思えた。しかも、これらをただ紹介して魅せているのではない。ストーリーにしっかりと活かせているのである。
本作では、先述した美術品とは別に芸術・美術ファンにとってはかなり興味深いと言えるシーンがもう一つある。劇中で三兄弟が家を売り払い、美術館にコレクションを寄贈するが、その後に観られる美術館の舞台裏とも言えるシーンがこれだ。このシーンは、オルセー美術館々内にて撮影されたものである。
ドラマ部分もホームドラマらしい描き方で面白さを味わえるが、ホンモノの美術品や美しい風景の印象が強いため、ついついこれらばかりを注目したくなってしまう。
美術の素晴らしさを全面的に押し出し、「美しいものは時代が変わっても永遠に美しいものだ」というメッセージを投げかけた貴重な芸術作品だ。
(佐々木貴之)