本物の記録映画のような錯覚を覚えた(60点)
名もなき人々の思いから激動の中国近代史を浮き彫りにするセミ・ドキュメンタリー。四川省・成都で、再開発のために閉鎖される巨大国営工場420。そこで働いていた労働者たちの声を丹念にひろっていく。文化大革命や自由化政策など、時代の流れに翻弄されながらも、労働への誇りや家族、初恋などの思い出を語る俳優の表情が自然で、崩れ落ちる建物の映像と共にこれが本物の記録映画のような錯覚を覚えた。ジャ・ジャンクーは、常に個人よりも国家を優先する中国史の中で、失われる記憶を焼き付け、映画に庶民の語り部の役を与えたのだろう。山口百恵からインターナショナル、さらに古典詩まで、この作品に寄り添うすべての“うた”が心に染みる。
(渡まち子)