◆ヒュー・グラントのために書かれたという脚本は、浮気者なのに憎めないキャラが十八番の彼にピッタリだ(60点)
笑いとペーソスで夫婦の危機を乗り越えるラブ・コメディ。モーガン夫妻は、NYでは人もうらやむ超セレブ・カップル。妻のメリルは不動産業を営み、夫のポールは全米屈指の敏腕弁護士だが、現在はポールの浮気が原因で夫婦仲は最悪に。堪忍袋の緒が切れたメリルとは対照的に、浮気したくせに妻に未練たっぷりのポールはなんとかヨリを戻そうと懸命だ。そんな二人は、たまたま一緒にいた時に殺人事件に遭遇し犯人の顔を見てしまう。唯一の目撃者として命を狙われる立場になった夫婦は、証人保護プログラムのため、身分を隠し、NYから遠く離れたワイオミングで一緒に過ごさねばならなくなる…。
ヒュー・グラントのために書かれたという脚本は、浮気者なのに憎めないキャラが十八番の彼にピッタリだ。犬猿の仲の男女がまったく違う環境で互いを見つめあい和解する物語は、ラブコメとして鉄板の展開。ただそこに証人保護プログラムが加わるのが、目新しい。証人保護プログラムとは事件解決の鍵を握る人物を、名前や経歴を変えて保護する制度で、本来はシリアスなものだが、本作の場合はあくまでライト感覚。二人には、犯人から狙われる危険より熊と遭遇した恐怖の方がよほど切実だ。ド田舎のワイオミングで浮きまくる都会人というカルチャーギャップでたっぷりと笑わせ、自然と共存する素朴な生活の素晴らしさを謳いあげる。
二人をいつしか素直な気持ちにさせるのは、時間に追われる都会とは違う静かな暮らしだ。特に満点の星空の下で語り合う場面がいい。ポールは、かつてメリルのゴキゲンをとるための派手なプレゼントとして「星座」を贈ろうとしたが、経済的にも社会的にも自立しているメリルは、そんなモノなどほしくはない。彼女が欲しいのは、過ちを犯した夫の心からの謝罪と思いやりの言葉だったのだ。そんなメリルにも実は秘密が。結局、夫婦とは、間違いを正直に認め許しあって、互いの欠点を補っていく関係なのかもしれない。それにしてもヒュー・グラントは急にフケこんだ気がする。そろそろラブコメ・キングの称号は返上したほうが良さそうだ。
(渡まち子)