告白 - 前田有一

告白

© 映画「告白」フィルムパートナーズ

◆真っ黒な爽快感(95点)

 後世になれば、この映画は松たか子の代表作にして最高傑作と呼ばれることになるかもしれない。現時点(2010年6月)における、私が見た中で本年度ベストといえるこの映画を、本サイトで公開前に紹介できなかった事をたいへん申し訳なく思う。(Web以外の原稿等の締切が、70作品分以上集中する緊急事態でした、すみません)

 ある中学校の教師(松たか子)が、終業式のホームルームで不気味な告白を始める。数ヶ月前、自分の幼い娘(芦田愛菜)が校内のプールで溺死した事故は、じつはこのクラスの中の2名による殺人だったというのだ。そんな衝撃の事実を知らされながらも、まるで深刻にうけとめず、好き勝手に騒ぐばかりのこの崩壊学級の少年少女たち。だが教師は少しもひるむ事無く、次に告げた「ある事実」により、全員を凍りつかせてしまう。

 開始早々、松たか子のただ事ではない演技に引き込まれる。背中を氷のハンマーでたたかれ、脊髄を麻痺させられるような冷たい衝撃を、観客は(劇中のクラスメートと同時に)味わうことになる。もとよりこの女優の底力を日本最高ランクと認識していた私でさえ、ここまで出来るのかと驚かされた。

 さらに本作には、モンスターペアレントの役として木村佳乃も登場。この女優も、松ほどではないにせよ、それに迫るド迫力演技を見せる。監督の冷酷な映像作りのおかげもあって、現実離れした学級崩壊の様子にもうそ臭さを感じることなく、全編興ざめせず楽しむことができる。

 惜しむらくは犯人役を含めた子役たちの演技が、この二人に圧倒され力不足な点。贅沢な希望ではあるが、ここに松と木村クラスのパフォーマンスを見せる者があと一人でもいれば、この映画はとんでもないことになっていただろう。

 レディオヘッドやクラシック曲がいい具合に使われ、スローモーションや青みがかった映像、けれん味あふれるVFXの効果など、監督の演出もびしっと決まった。それに前述の女優の圧倒的技量が加わる。全員の持てる力が総動員された、映画らしい映画だ。湊かなえの原作も高い評価を得ているが、これほどの映画になれば、誰にも不満はないのではなかろうか。

 これは、善良な母親であり教師だった女性が、娘の復讐をする話である。そして本作には、そこいらの映画にありがちな偽善的態度はない。大切な者を奪われた被害者がどれほどの悲しみと怒りに見舞われるか、人の心の痛みの本質を鋭く描いた正直さがある。真の意味での作り手の良心を感じられるといってよい。

 松たか子演じるヒロインは、映画の冒頭からすでに善なる心を捨て去っているかに見えるが、それでも100%ダークサイドに落ちたわけではないことが後半のファミリーレストランのシーンで観客で提示され、ほっとさせる。

 そしてこの直後、女優松たか子、一世一代の大芝居。本作最大の演技上の見せ場がやってくる。犯人の人間性に触れたことで、復讐を遂げるには逆に奴らと同じ鬼畜にならねばならぬ事を再確認させられる苦渋のシーンである。

 折れそうになるヒロインの心を支えるのは、見知らぬ少女から贈られた、手の中のちっぽけなプレゼント。それを凝視して亡き娘への愛を必死に思い起こし、その力で体内に残った最後の良心・倫理観を捨て去るのである。それらを残らず搾り出すようにうめく嗚咽は凄まじいの一語につきる。ここ数年、私はこんなに強烈な演技を見たことがない。

 善意、良心、倫理……何者をも凌駕するわが子への愛だけを武器に、主人公は自らを奮い起こし悪へと立ち向かう。キチガイを制するには、連中の領域に真正面から踏み込む覚悟と、その中で立ち上がるたくましさがなければならない。このヒロインの決意に比べれば、現実世界で悪と対峙する司法・警察のなんと生ぬるいことか。

 「告白」は、サイコパス、サイコキラーに対し、それ以上の悪と愛で立ち向かう一人の女性の戦いの物語である。類似の映画が超えられなかった壁を打ち破った、きわめて新鮮な(本作なりの)真理を描いた点は、特筆すべき偉業といえる。

 この映画から受ける真っ黒な爽快感は、この作品が偽善を真っ向否定していることからくるものだ。「下妻物語」(2004)以来、低迷していた中島哲也監督久々の傑作であり、文句なしのオススメ品である。

前田有一

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