卵 - 福本次郎

感情を抑制した寡黙な映像はユシフの歩んだ半生を反映しているようだった。(点数 50点)

遠い昔に捨てたはずの故郷、すっかり変わり果てた街並みの中で、わ
ずかに自分を覚えてくれている人もいる。そして忘却の彼方に追いや
った記憶が脳裏によみがえる。主人公の苦悩、死者の願い、周囲の人
々の思い、それは懐かしさなのか後悔なのか。相変わらず映画はその
答えを導くことに興味はなく、さまざまなメタファーで観客のイマジ
ネーションによりかかる。物語は壮年を過ぎた男が母の死をきっかけ
に帰郷し、そこで新しい人間関係を築いていく過程を描く。都会での
生活は喧騒に満ちている半面、孤独の深淵から這い上がるのは難しい。

かつて詩人として活躍していたユシフはイスタンブールで古本屋を営
んでいる。ある日、母の死の報せを受けティレにある実家に帰ると、
アイラという若く美しい遠縁の娘が母の世話を焼いていたことを知る。

ティレにはよい思い出がないのだろうか、ユシフは葬儀を終えると早
々に立ち去ろうとする。だが相続や事後処理などの雑事だけでなく、
母が願かけに羊を生贄にしようとしていたのをアイラに教えられ、完
遂するまで滞在してくれと懇願される。一方でアイラは都会の大学に
進学する夢を恋人に反対されている。町に残った人々が、町を出て成
功した者に対して抱く、ほのかな嫉妬と羨望、その複雑な気持ちが電
気店の男の視線に集約されていた。

さまざまな苦楽を体験した後にやっと至る心境。感情を抑制した寡黙
な映像はユシフの歩んだ半生を反映しているようだった。

福本次郎

【おすすめサイト】