◆ベストセラー小説の映画化である本作は、いわゆる難病もの。またか…と思っていたら後半に意外な仕掛けがあって驚いた(65点)
ドラマやアニメで人気のベストセラー小説の映画化である本作は、いわゆる難病もの。またか…と思っていたら後半に意外な仕掛けがあって驚いた。そのことにより青春恋愛映画から、長い年月を懸命に生きた人間ドラマにシフトする。平凡な高校生の裕一は退屈な入院生活を送る病院で、心臓病を患う少女・里香と出会う。最初は里香のわがままに振り回されるが、次第に彼女に惹かれていく裕一。9歳の頃から病院で暮らし、「銀河鉄道の夜」を愛読する孤独な里香もまた、外の世界を見せてくれる裕一に好意を持つ。一方、病院の医師の夏目は、医者でありながら最愛の妻を救えなかった過去に縛られていた…。
純愛プラス難病。日本映画のヒットの方程式ともいえる構図で、物語はまさにその通りに進んでいく。だが本作は、医療環境を含む地方都市の現状やそこで生活する人々を丁寧に描くため、雰囲気重視で、現実離れした恋愛映画とは一線を画している。裕一は、わがままだが不思議な魅力にあふれた里香にどんどん惹かれていき、彼女のために何でもしてやりたいと、病院を抜け出して思い出の地へと出かける。その懸命な努力は、おそらく長くは生きられない里香を少しでもつなぎとめようとする不器用な愛情表現だ。里香が学園祭の劇でいきなり主役を務めるなど、突飛な描写があるが、彼女には学校生活そのものがスペシャルな出来事。それを経験することはヒロインになることと同じなのだ。そんな、ピュアな10代の二人と、失意の中で時を止めて生きる医師・夏目が思いがけない形で“出会う”驚き。どんでん返しやトリックという言葉よりも、登場人物たちの奥行きを深める善意のミスリードである。その驚きに心地よさを感じると同時に感動を覚えた。一日でも長く一緒にいたいという願いと、一生忘れられない想い。映画を見終われば、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の主人公ジョバンニは、親友カンパネルラといつまでも共にあることを改めて思う。
(渡まち子)