半分の月がのぼる空 - 小梶勝男

◆少年少女の難病と恋愛を描く青春映画だが、映画ならではの叙述トリックが驚きの展開を見せる。(85点)

 単なる少年少女の難病・恋愛を描いた青春映画だと思っていたら、びっくりさせられる。見事な叙述トリックが使われているのである。それが単に驚かせるだけでなく、クライマックスの感動につながっているのが素晴らしい。

 肺炎で入院した高校生・裕一(池松壮亮)は、病院で心臓病の少女・里香(忽那汐里)と出会う。里香は9歳から病院暮らしで、他人と接することが少ないため、裕一に対してわがまま放題に振る舞う。最初はとまどう裕一だったが、次第に里香に惹かれていく。

 叙述トリックの面白さだけでなく、本作は青春映画としても優れている。冒頭、三重県・伊勢市の夜の商店街を、裕一が自転車で走る。仲間のバイクに遅れないよう、全速力で駆ける。病気なのに、この元気さは何だろう、と思うほどだ。

里香は父親との思い出が残る「砲台山」へ行きたいと言う。裕一は夜、里香を「砲台山」へ連れ出そうとする。看護師たちに追われて、病院内を走る2人。それが「卒業」のダスティン・ホフマンとキャサリン・ロスのように見えてくる。病院を「脱出」した2人は、夜の商店街を、バイクで風を切る。肝炎と心臓病という病気の2人なのに、走ってばかりいるのだ。

 深川栄洋監督は2人の「病気」を観客の同情を呼ぶためには使わない。一つの「限界」として使う。それは、病院からでることができないという場所的な限界であったり、激しく動くと倒れてしまうという肉体的な限界であったりする。限界を設定した上で、2人に病院を脱出させたり、思い切り走らせたりして、限界を超えさせる。体の底から沸き上がるエネルギーが、限界を超えていくことで、圧倒的に青春を感じさせるのだ。

 2人とは対照的に、過去に傷つき、疲れた大人として、病院の医師・夏目(大泉洋)が描かれる。かつて、心臓外科医だったが、心臓病の妻を救うことが出来なかったため、今はメスを握ることができなくなっている。

 夏目と2人の人生が交差することで、映画は全く違った顔を見せ始める。そこからクライマックスに至るまでの展開が見事だ。叙述トリックを使った恋愛映画というと、最近では「今度は愛妻家」を思い出すが、本作の方がトリックも映画もよく出来ている。トリックが、主人公に素直に共感できるよう、観客の心の蓋をスパッと開けてくれるのだ。

 池松壮亮と忽那汐里が若い2人を生き生きと演じていて、とてもいい。特に新人の忽那は、物語が進むにつれて固い表情が柔らかくなっていく。女優として「成長」していく様子が、一本の映画の中に記録されているように見えた。そして、大泉洋はやっぱり上手いと思う。

小梶勝男

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