◆どんな場所、どんな時代にも荒野には争いが存在するが、ヒーローの登場を信じる人々の希望が西部劇を神聖化する（55点）
内藤泰弘による人気コミックで、ド派手なガンアクションが魅力のサイバー・SF・ウエスタンの劇場版。近未来、流砂の町・マッカでは、市長のケプラーが、希代の大強盗ガスバックの襲来に怯えていた。一方、ガスバックに賭けられた巨額の懸賞金目当てに、名うてのガンマンたちが続々と町に集結。その一行の中には、伝説のガンマンで人間台風（ヒューマノイド・タイフーン）と呼ばれる賞金首のヴァッシュ・ザ・スタンピードの姿が。だがヴァッシュは美貌の女ガンマンのアメリアにちょっかいを出してふざけてばかり。やがてガスバック一味が現れるが…。
超絶的な凄腕ガンマンで600億$$（ダブドル）の賞金首ながら、絶対的な平和主義者で“ラブ＆ピース”を唱えるヴァッシュの飄々とした魅力と、銃弾百万発が乱れ飛ぶ迫力のガンアクションによって、日本のみならず米国でも大人気の「トライガン」。原作ではヴァッシュやその他のキャラの出自や、悲しい過去、意外な関係性などが描かれているが、完全オリジナル・ストーリーであるこの劇場版では、それらには触れず、大強盗ガスバックとヴァッシュの因縁、さらに女ガンマンのアメリアの秘めた思惑とが錯綜し、過酷な世界で生きる人々の生き様に焦点を当てている。とはいえ、人気キャラはしっかり登場。お嬢様口調で天然の保険調査員メリルとミリー、巨大な十字架型の武器を背負い関西弁を操るさすらいの巡回牧師・ウルフウッドらは、重要な役を担う。とんがった金髪と真紅のコートがトレードマークのヴァッシュの平和主義の是非を問い直すストーリーは意外にも真面目なものだが、「荒野（バッドランド）の大狂宴（ランブル）」との副題の通り、クライマックスには、人間災害に指定されたヴァッシュの重量級のリボルバーが火を吹く。私は西部劇が大好きなのだが、この作品の世界観は興味深いものだ。どんな場所、どんな時代にも荒野には争いが存在するが、ヒーローの登場を信じる人々の希望が西部劇を神聖化する。そしてヒーローは決して安住が許されない悲しさが、今はもうない西部の幻をスクリーンに照射して胸を打つのだ。西部劇ファンとはそんな忘れられた時代に思いをはせるロマンチストなのかもしれない。SFなので何でもアリな上、ハジケッぷりはとびきりの本作。オリジナル・ストーリーなので、原作未読のファンでも十分に楽しめるはずだ。
（渡まち子）
