劇場版“文学少女” - 福本次郎

◆大人になると汚れてしまうと思いこむ少女にとって、意のままにならない人生など生きるに値しない。彼女が、人を愛し愛される、人を信じ信じられるのが、「ほんとうの幸」につながることを知る過程がみずみずしい感性で描かれる。(60点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 ずっと純粋な気持ちのままでいたい、自分の醜い部分が許せない、そんな思春期特有の繊細な心理が宮沢賢治の作品のモチーフに投影され、「死」という言葉が持つ甘美な響きに強く惹かれていく様子がリアルに再現される。大人になると自らが汚れてしまうと思いこんでいる少女にとって、意のままにならない人生など生きるに値しない。彼女が、人を愛し人に愛される、人を信じ人に信じられるのが、「ほんとうの幸」につながることを知る過程がみずみずしい感性で描かれる。オタク系フィギュアのような登場人物の大きな目と細長い胴体・手足が最初はとっつきにくかったが、“文学少女”のイメージにはぴったりだ。

 本のページを破って食べる遠子に誘われて文芸部に入った心葉は、遠子のために物語を書く日々。ある日、遠子が置いた恋文代筆依頼箱に不思議なイラストを描いた手紙が連続して投かんされる。それは宮沢賢治の落書きにそっくりだった。

 手紙の謎を追ううちに心葉は幼なじみの美羽と再会する。かつて2人は一緒に小説家になる夢を追っていたが、心葉が新人賞を取ったために傷ついた美羽が自殺を図った過去がある。心葉はそれをずっと気に病み、遠子と一緒にいても本格的に物語を紡ぎだす気力が戻ってこない。さらに心葉に思いを寄せる同級生なども絡み、心葉を中心とした人間関係は恋と友情だけでなく、憎しみや嫉みといった宮沢賢治が最も苦手としていたようなドロドロとしたものになっていく。そこに高校生らしい青臭い正義感などが絡みミステリーの様相を呈していく展開は、ライトノベルが原作とは思えない人間臭さだ。

 美羽の心葉に対する、憑りついて離れない幽霊のような情念が恐ろしい。愛というには利己的すぎ、嫉妬というには欲深すぎる。己に才能がないのを心葉のせいと逆恨みして、校舎から飛び降りて心葉に致命的な心の傷を負わせようとする。美羽の狂気ににも似た怨念のすさまじさがとても文学的。そんな彼女に、カンパネルラはジョバンニに一緒に死んでほしいなどとは決して望んでいなかったことを理解させる、プラネタリウムのシーンが幻想的で美しかった。

福本次郎

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