◆"映画愛"をたっぷりと浸潤させた秀作(75点)
とある街の一角にある、ちょっぴり時代遅れのレンタルビデオ店(DVDは置いてない)。ある日、常連のジェリー(ジャック・ブラック)が大量の電磁波をあびたまま店に入ってきたことにより、陳列していたビデオの中身がすべて消えるトラブルが発生。事態を重くみた店員のマイク(モス・デフ)はジェリーと共に自主制作映画を撮り、そのビデオを客に貸し出すことにした……。
いつつぶれてもおかしくないレンタルビデオ屋を拠点にくり広げられる物語は、その底辺にユーモアを敷き詰めながらも、創造的でヒューマニズムあふれ、そして、全編にわたり、"映画愛"をたっぷりと浸潤させた秀作。笑えて、泣けて、最後はほのぼの、だ。
ジェリーとマイクのもともとの関係は、クルマで言うところのアクセルとブレーキ。悪ノリが激しいジェリーをマイクがたしなめる、といったアンバイだ。
ところが、電磁波事故をきっかけに、マイクのブレーキは故障。ジェリーとマイクが一緒になってアクセルを踏むことにより、物語は、周囲の人たちを巻き込みながら、ぐんぐんとドライブ力を増して行く。到着地は予測不可能。はてさてどうなることやら……、という展開。
ふたりが名作&旧作を次々とリメイクしていくくだりは、本作の目玉中の目玉。「ゴーストバスター」や「ライオン・キング」「ラッシュアワー2」を皮切りに、セルフキャストと手持ちのビデオカメラ、それにDIY精神あふれる大道具&小道具&衣装……等々を駆使して、驚くべきペースで作品を量産!
基本悪ノリながらも、彼らのなかにもともとあった"映画愛"が、彼ら自身の創作意欲に火をつける。もちろん、このサービス精神あふれる家内制手工業作品の数々に、細かいツッコミを入れるのは、無粋ってモンだ。
彼らの作品は、思いも寄らず(?)街の人々にバカ受けする。その理由は、名作のリメイクだからではなく、そこに作り手のニオイを感じるからだろう。日増しに評価を高める彼らの作品は、アイデアのかけらもない焼き直し作品や、デジタル偏重、モノマネ商品が乱発される昨今の社会(もちろん映画を含む)に対する風刺としてもピリ辛だ。
小さなエネルギーが、人々の好評を介して、どんどん肥大化していく。その痛快さときたらない。もちろん、その反面で、どう抗っても抗いきれない社会や時代の仕組みや流れといったものも強く感じられ、そのコントラストが、しんみりと観客の哀愁を誘う。クライマックスで、街の人々がドキュメンタリー映画を楽しむシーンは、「ニューシネマパラダイス」さながらで、しみじみと心温まる。
ジャック・ブラックは文句なしのハマリ役。台本通りだかアドリブだか見分けのつかないセリフと表情と動きを武器に、世界が認めるジャック・ブラック芸をスクリーンのそこかしこに打ち込んでいく。
悪ふざけがすぎるといえば、返す言葉が見あたらないが、その悪ふざけを正々堂々とやり抜いた本作「僕らのミライへ逆回転」は、ユーモアと小ネタをまんべんなくちりばめながら、「バカ」に「本気」で取り組んだすてきな作品。映画ファンでなくても楽しめるとは思うが、この作品をより深く楽しく味わえるのは、本作に登場する名作・旧作の数々を見たことのある人々だろう。
(山口拓朗)