人間失格 - 福本次郎

◆男は、酒に溺れ、女に頼り、現実逃避しようともがくが死に切れない。弱い自分を許容する女たちを直感的に見極める能力で世の中を渡っていこうとする。しかし、あえて感情を抑えた演出からは彼の苦悩や葛藤は伝わってこない。(40点)

ネタバレ注意! この批評は結末に触れています。

 酒に溺れ、女に頼り、いつも現実逃避しようともがいているにもかかわらず死に切れない。弱い己に甘え、それを許容する女たちを直感的に見極める能力で世の中を渡っていこうとする。しかし、あえて感情を抑えた演出からは主人公の苦悩や葛藤は伝わってこない上、ヤマ場の乏しいエピソードの連続は退屈を通り越してウンザリしてくる。まあ、このダメ男の遍歴をダラダラと見せて、観客にも彼が内包する人生に対する苦痛を味あわせようとしているのなら、その目論見は成功しているが。。。

 津軽の素封家に生まれた葉蔵は、子供のころから女に囲まれて暮らす日々。東京で堀木という男と知り合い、遊びを覚えると、カフェの女給と心中を試みるが、葉蔵は助かってしまい、実家から勘当されてしまう。

 何事にも葉蔵は己の意思が希薄で、流されるままに万事進んでいく様子はどこか浮遊感が漂う。まるで体外に出た葉蔵の主観が客観的に自身を見つめているかのような感覚だ。そんな態度が母性本能をくすぐるのか、ある種の女には好意を持たれ、ついには結婚までする。ところが、自分の女グセは棚に上げ、妻が他の男と寝ている現場を目撃すると嫉妬に駆られ絶望にさいなまれるという身勝手さ。発作的に劇薬を飲み、言い訳を繰り返すという女々しさは、もはや立派にすら感じる。情けなさを前面に出し、プライドや上昇志向などとはいっさい縁のない葉蔵の生き方は、希望に乏しい現代社会の写し鏡ではないだろうか。

 葉蔵は何を恐れ、何から逃げているのか。それは彼が描いた「おばけ」の絵に象徴されているのだが、物語の始めと最後にちらと顔を出すだけで、視覚的ライトモティーフにはなりえていない。映画はほぼ原作に忠実だが、そこに斬新な解釈があるわけでもなく、ただ表層をなぞっているに見える。葉蔵の心を支配する虚無感も、日中戦争から太平洋戦争に突入する時期の日本の空気もあまり感じられず、無感動に生きている葉蔵の命の軽さが引き気味に語られるのみで、結局、堕落の蜜を楽しむまでには至らなかった。

福本次郎

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