人生の特等席 - 樺沢 紫苑

父と娘の和解物語(点数 90点)


(C)2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

父と子の確執は、そんなに珍しいことではありません。
どこにでもあることなのです。

だから、あなたが父親との確執を抱えていたとしても、
落ち込む必要はありません。

クリント・イーストウッドの4年ぶりの主演作
『人生の特等席』を見ました。

イーストウッド作品は、監督作も主演作もハズレなし。
老いてますます盛ん。

82歳にして、これだけエネルギッシュに仕事をこなす
イーストウッドは本当に凄い。
こういう歳のとり方をしたいものですね。

最近のイーストウッド作品は、「老い」をテーマにしているものが多い。
『ミリオンダラー・ベイビー』『グラン・トリノ』『J・エドガー』。
そして、『人生の特等席』もそうです。

大リーグの伝説的なスカウトマンとして知られるガス。
年齢による視力の衰えもあり、球団フロントも彼の能力に
疑問を抱き始めます。「引退」かどうかの崖っぷち。

次の、ドラフト会議が迫る中、大物高校生ボーを1位指名するか
どうかの重要な判断が、ガスに任せられます。

その最後の視察旅行に同行するのが、ガスを心配して駆けつけた
娘のミッキー(エイミー・アダムス)。

この父と娘には埋められない大きな心の溝がありました。
その溝が、この旅を通して埋められるのか?

そう。
この映画は、「父と娘の和解物語」の物語だったのです!

もし私の『父親はどこへ消えたか』を読んでから
この映画を見ていたたければ、映画が何倍にもおもしろく
見られたはずです。
 
二人の心の機微が、ありありと心に響くでしょう。
あるいは、映画を見てから拙著を読むと、より感動が深まるはずです。

あるいは、この映画を見てから『父親はどこへ消えたか』を読むと、
より映画の深い部分が見えてくるでしょう。

『父親はどこへ消えたか』では、
「父と子の和解」を重要なテーマとして盛り込みましたが、
『人生の特等席』もまさにそういう映画なのです。

娘ミッキーは、あることがきっかけで、父親に不信感を抱きます。
でも彼女は、大の野球好き。

「父親の職業が好き」「自分もそうなりたい。」
これは彼女が、父に対して父性を感じている証拠なのです。

ミッキーは、父親に不信感を持ちながらも、父性的な存在として、
そして一流のスカウトマンとして敬父に意を持っていたことが、
序盤のシーンからもわかります。

二人は視察旅行、選手の見極めということで、
二人三脚の行動をとりますが、「共同作業が親子関係を深める」
(『父親はどこへ消えたか』より)の通り、
二人の関係は徐々に深まっていくのです。

二人の心の溝は埋まったのか?
そして、ドラフト会議の行方は?
ガスは引退に追い込まれるのか?

ヒューマンドラマでありながらも、ラストのドラフト会議に向かった
緊迫感と盛り上がりのあるドラマとしてひきつけられ、
上質のエンターテイメントとして完成された作品だと思います。

あと「自分のやりたいことは何か?」
「自分のやりたいことを仕事にしていますか?」という
裏のテーマが隠されていますが、ここに私は強く共感しました。

私たちは「本当にやりたいこと」があるのに、それを忘れているか、
目先の仕事に忙殺されて、できなくなっているのです。

自分のやりたいことをやることが幸せ。
『人生の特等席』を見て、改めて確認しました。

ただ、この邦題『人生の特等席』というのが、今ひとつ魅力的ではありません。
映画の良さを全く伝えていないのです。

私だったら、『父と娘の特等席』にしますね。

原題は、”Trouble with the Curve”

「人生の曲がり角における苦悩」かと思ってずっと見ていきますが、
変化球の「カーブにまつわるトラブル」という
ダブルミーニングになっていて(映画を最後まで見た人だけがわかる)、
最後にハッとさせられます。

見て損のない映画。
特に親子関係がうまくいっていない人には、是非見て欲しい一本です。

樺沢 紫苑

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