◆二人の犯行手口はユニークであり、この着想は面白い(70点)
ヨーロッパの小国ハンガリー発のクライム・コメディーである本作は、単なる地味な小品ではない。長編初挑戦のガーボル・ロホニ監督が、なかなか面白いドラマとして仕上げてくれたのである。
81歳のエミル(エミル・ケレシュ)と70歳のへディ(テリ・フェルディ)の老夫婦は年金だけでは生活ができず、おまけに借金の取立てに追われる日々を過ごしていた。ある日、二人の出会いのきっかけであったへディの大切なダイヤ製イヤリングまでもが借金のカタに取られてしまう。エミルは愛車チャイカに乗って単独で郵便局強盗をやらかす。一方、へディは警察側に協力していたもののエミルと合流してからは二人で強盗事件を重ねて逃避行に繰り出す。
老夫婦による強盗劇、逃走劇をメインに描きながら高齢者に冷たいハンガリー社会を浮き彫りにし、シニカルとユーモラスを交えて批判して世間に訴えかけている。これが本作の重要なポイントだ。二人が強盗を重ねていくうちに世間の高齢者たちは二人の行動に共感を覚え、模倣犯までもが続出してしまう。また、被害に遭った者も二人を良い方向に捉えてしまう。社会的弱者である高齢者たちが二人の行動に勇気づけられて立ち上がる姿勢は心を揺さぶられ、清々しく思えるが、やっていることが立派な犯罪だと思うとやはり共感はできない。TVレポーターが市民にインタビューする中で「高齢者全員が悪者に見える」という高齢者に対する冷たさを感じさせる意見と「子供たちを外出させるのが不安」という強盗犯罪を否定する意見が映し出され、観る者を複雑な気持ちにさせる。
二人の犯行手口はユニークであり、この着想は面白い。高齢者ということなのか拳銃を手にしていてもド派手にブッ放したり攻撃的で汚らしい口調で脅したりせず、“紳士的”にやってのけるだ。我々が高齢者に対して抱いている優しいイメージが感じられる。強盗をネタにしたクライムドラマは多々存在するが、本作で観られる手口は明らかにありきたりのものとは全く違っており、まさに新味だと言える。
二人を追跡する警察側の描写も優秀であり、これが刑事ドラマさながらの面白さを堪能できる。だからといって手に汗握るようなド派手な追跡劇やアクションの見せ場はほとんど描かれない。それでも刑事ドラマ、ポリスアクションでよく観られるような描写がチラホラと映し出されているので、本作が手の込んだ作品であることに納得できる。
ラストではこれまた面白いドンデン返しが待ち受けている。“高齢者版ボニーとクライド”とも言えるエミルとへディはどうなるのか? 本家のように蜂の巣にされてしまうのか? それとも、人生に乾杯できるのか?
(佐々木貴之)