交渉人 THE MOVIE - 前田有一

◆ディテールがスィーツ状態(40点)

 人気テレビドラマの映画版『交渉人 THE MOVIE』は、いかにも日本の娯楽映画らしい、おおらかで心地よい一品である。

 現金輸送車から大金が強奪された事件で、犯人グループはやがてショッピングモールへと立てこもった。警視庁特殊捜査班所属の交渉人、宇佐木玲子(米倉涼子)が犯人側と交渉を開始するが、これはさらなる大犯罪への序章に過ぎなかった。

 冒頭、スタントマンの熱演が光るカーチェイスと、ファン待望の交渉シーンを前菜代わりに堪能したあとは、いよいよ本番のハイジャック事件が巻き起こる。実物大の航空機セットを使った内部のリアリティ、北九州空港とスターフライヤー協力による外観、飛行場風景など、邦画ながら見た目の重厚さが感じられるエンターテイメントである。ハイジャックされた航空機になんと刑事が乗り込み、上空で熾烈な駆け引きと戦いを繰り広げるという、いまだ誰も見たことのない設定も魅力だ。

 米倉涼子はどこからみても女性警官には見えぬさすがの役作りで、自らの当たり役を好演。もうすこし持ち前のプロポーションの良さを強調してもらえればなお良かったが、そうしたお色気は腹八分目の絶妙な出し惜しみ具合。

 犯人側の手口は繊細で、飛んでる飛行機内でも遠慮なく拳銃をぶっ放すなどして、観客を驚かせる。いったいどこから持ち込んだのかと驚く潤沢な銃弾、爆薬類。近年厳しくなる一方の空港セキュリティ体制をもろともしないその鮮やかな手口には、さすがの私もシャッポを脱いだ。

 米倉涼子刑事をドラマ史上ないほど追い詰めるこの知能犯グループは、悪さのスケールもデカく、ちょいと地上で暗殺すりゃすむような目的を、旅客機の乗員乗客ごと巻き込む劇場型犯罪へと昇華させてしまう。成功率よりもハデさを重視するその価値観は、まさに21世紀の犯罪者にふさわしい。

 福田赳夫元首相や日本赤軍もびっくり、「命は地球より重い」といったなつかしの名言も飛び出すが、それを伏線として生かせなかったのはもったいなかった。

 そんなわけで本作を一言で評するなら、迫力があるのにディテールの甘さで損をしている、ということだ。ドラマをみていない層にも親切なつくりなど、かなり好感が持てるだけに、もう少し回りにアドバイスができる人がいればな、と悔やむしだいである。

前田有一

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