世界にひとつのプレイブック - 青森 学

涙と笑いは紙一重。この人生もきっとそう。(点数 80点)


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最愛のパートナーを喪った男女が、苦しみを乗り越えて人生を取り戻すストーリー。

物語の冒頭で主人公が精神病院を退院するシーンで始まるのだが、この男は躁鬱病なのだ。
主人公が鬱になっているシーンは作品中には無かったようだが、躁状態のシーンが結構リアル。不眠の状態で夜通し本を読み続け、夜中に両親を叩き起こして思いつくままに感想をしゃべり続けるシーンはやはりリサーチしてシナリオを作っているように思う。結構リアリティがあった。

この作品がゴールデングローブ賞でコメディ/ミュージカル部門の作品賞にノミネートされているのだけれど、躁鬱病患者をコメディの括りに入れてしまうことはポリティカルにコレクトなのだろうかと少し心配なのだが、サヴァン症候群を扱った『レインマン』はシリアス路線だったし、知的障碍者を主人公にした『フォレストガンプ』はコメディとしても評価されたのに何故そういう批判は無かったのか。
宣伝ではこの作品の主人公が”躁鬱病”であることを言葉巧みに避けているようだけれど、言葉を変えたところでその病気自体が無くなるわけでもない。
唯、ネガティブなイメージのある言葉を封印することで、差別感情をも消そうとする考え方を否定しないが、一方で言葉狩りと揶揄されるように、人畜無害な言葉に換えてしまう事は問題に思う。
消毒された言葉は生きる力を失い、うすぼんやりとした魂が漂う世界を作り出す。
躁鬱病が政治的に正しくない言葉であるのかは分からないが、マイノリティを傷つけるから避けるのではなく、世間の批判をかわす為だけに無難な言葉に置き換えるのであればそれは本気で映画を作っている人や物書きを侮辱することにほかならない。
監督や脚本家はプロデューサーや出資者の顔色を看ながら映画を作っていかなくてはならないが、訴求力の有るものを産み出そうとするほど問題の核心に切り込まなくてはならない。つまり多くの敵を作ることにもなる。
それだけが要因では無いが駄作と傑作の境界線はそんなところに引かれる。この映画のネックは躁鬱病患者の闘病を”コメディ”として観るよう強制されることだ。
確かに笑えるシーンはあるのだが、でもそれは病人の痛々しい症状であり、笑いにいつも疚しさが付きまとう。人格を試されているような気がして、これは一種の“踏み絵”なんじゃないかと思えてくる。
病気をコメディとして扱うならば圧倒的に病気を肯定しなければ成功しない。
『フォレストガンプ』がコメディとしても成立なしえたのは障害が功を奏して幸運をつかむファンタジーだから。
ハンディキャップがむしろ利点と働いて成功をつかむ逆転の鮮やかさに観客はカタルシスを得られたのだった。
だが、この作品ではハッピーエンドで締め括っているから辛うじてコメディとして観ることが出来るものの、それがなければ笑うには結構ヘビーなストーリーだった。

コメディにしては躁鬱病を笑わなければならないジレンマがある点でブラックユーモアに近い。

ストーリーの推進力となるのが失業した父親が始めるノミ屋で稼ぐ博打の行く末なのだが、それに絡んだ主人公と両親の掛け合いが笑いを含みほっこりとした味わいがある。
元ニンフォマニアのガールフレンドとの恋の展開に目を細めるのだが、いっそのこと普通のドラマとして観たほうが共感するのではと思う。いびつだけれどかけがえの無い人生を謳う点に注目するのが、この映画を楽しむ肝なのではないのかと。

躁鬱病の苦しみを描いている点で笑にくいし、傾向としてはユーモアをトッピングした『ビューティフルマインド』のテイストに近いものがあった。

主人公の父親が彼と同じように爆発(主人公の台詞ではExplosionと説明している)しやすい性格をほのめかしていたので、彼の病気が本当に精神病なのか遺伝する性格故なのか映画ではその判断を保留している。

彼の病気は根治しないのだが、そんな彼の病気を”ひとなり”と受け止めて理解しようとする家族がいてガールフレンドがいる。
人格と病気の境界に明確な線を引こうとする現代において、病気を理由に敬遠しようとせず、彼らのように他者を理解しようと歩み寄る姿勢こそが尊ばれるといえるだろう。

マイノリティを扱う映画に強く共感するアカデミー会員が、この作品にどれだけの票を投じるのか目が離せない。

青森 学

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